LINEの決済サービス「LINE Pay」の安全性は大丈夫?――江藤貴紀「ニュースの事情」
2015.01.29
韓国のIT大手ネイバーの子会社LINEが、送金決済サービスのLINE Payを鳴り物入りでスタートさせた。旧来の紙媒体や、各種ネットメディアではおおむね好意的に(あるいは少なくとも無批判に)報道されているようである。(http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ16HWW_W4A211C1TI0000/)
ただ金銭の授受が可能なサービスにも関わらず、利用規約で、消費者保護および犯罪防止に関して穴があるように見受けられるのでいくつか指摘したい。
まず、本人認証が徹底していない点である。類似の決済サービスPayPalと比べてみよう。
(1)まずPayPalは、金銭の受け取りが可能な「ビジネスアカウント」の開設について、身分証は「スキャン」すること、とあるのに対してLINE Payの本人確認は「撮影」して添付 となっている。 (http://help.line.me/line/android/categoryId/10001102/)
LINE Payとしては迅速に利用者拡大をしたいのだろうが、スマホの写メなどで身分証の送信をするということでよいのだろうか。画素の荒さなどから、偽造身分証が見破りにくくなる危険がある。この点などについて筆者は3週間ほど前にLINE Payに電話で問い合わせたところ、「担当者から追って連絡する」という返答を頂いたが、まったく返答はいただいていない。
(2)また、要求される書類の点数が少ない。PayPalなら例えば、「ビジネスアカウント」の開設について保険証+公共料金の領収書が要求されるのに対して、LINE Payは保険証だけで済む。もっともPayPalの場合、支払いにしか使用できない「パーソナルアカウント」の開設だけならばクレジットカードと住所の入力のみで済む。なので、この点はLINE PAYの方が本人確認をしっかりしていという評価も可能かもしれないが、恐喝その他の犯罪を抑止する際には支払口座より、受け取り口座を誰が開設するかの確認が重要ではないだろうか。(https://www.paypal.jp/jp/contents/start/account-shopping/)。
・ペイパルで必要な書類:https://www.paypal.jp/jp/contents/support/faq/faq-049/
・LINE PAYで必要な書類:http://line.me/ja/pay
ところが、いざ犯罪などが生じた場合の補償はどうなっているかというと、自社はほとんど責任を負わない旨をLINE側は明言している。
(参照:LINEの送金決済サービス 契約書面で「安全性を保障しない」と明示 トラブルでも損害賠償請求を制限 契約名義はLINE本体とも別会社と判明 http://echo-news.net/japan/extreme-lines-of-one-sided-terms)
何故、安全性の確保が重要な送金・決済サービスにそのような規約を使っているのか。じつは筆者がLINEの展開している他のサービスについて調べていたところ、LINE Pay利用規約のうち、かなりの部分がLINE社の展開しているアバターサービス LINE PLAY(http://lp.play.line.me)の流用であると判明した。
例えばだがLINE PLAYでは安全性を全く保証しないであるとか、利用者の行為に起因してLINE側が受けた損害を全て利用者が負担するという規約になっている(13条および14条参照:http://terms.line.me/line_terms/?lang=ja)。
以上をまとめると、失礼ながらLINE Payはサービス立ち上げと拡大を、安全性確保よりも優先していたと思われる。また、このLINE Payは契約主体がLINE株式会社本体ではなく、子会社のLINE Pay株式会社となっていることも留意するべきだ。
万が一ユーザーに損害が生じても十分な補償が受けられない可能性があるからである。
ニールセン調査によれば、LINEは日本ではいまやFacebookとユーザー数を二分するメジャーサービス(https://hbol.jp/22701)。さまざまなサービスを提供すればユーザーの利便性は上がるだろう。だからこそ、その分、安全性に関わるところはきっちりとしてもらいたいものだ。
<取材・文/江藤貴紀 (エコーニュース:http://echo-news.net/)>
【江藤貴紀】
情報公開制度を用いたコンサルティング会社「アメリカン・インフォメーション・コンサルティング・ジャパン」代表。東京大学法学部および東大法科大学院卒業後、「100年後に残す価値のある情報の記録と発信源」を掲げてニュースサイト「エコーニュース」を立ち上げる。
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