古賀茂明氏(左)と相澤冬樹氏(右)
森友学園問題で決裁文書の改竄に関与させられ自死した財務省職員、赤木俊夫さんの妻である雅子さんと、この事件を追い続けてきたジャーナリスト・相澤冬樹氏の共著『
私は真実が知りたい 夫が遺書で告発「森友」改ざんはなぜ?』(文藝春秋刊)
同書に収録されている赤木俊夫さんの手記を読んだ元経産省の官僚・古賀茂明氏は新著『
日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社刊)のなかで「(手記を読み)私の心はブルブルと打ち震えた」と綴っている。
今回、相澤氏と古賀氏の対談が実現。赤木俊夫さんの「強さ」や官僚のあるべき姿、そして霞が関に変革を促す方法など、存分に語り合った。
新刊『日本を壊した霞が関の弱い人達 新・官僚の責任』(集英社)を上梓したばかりの古賀茂明氏
古賀:赤木俊夫さんの上司である池田靖さんの音声データが公開され、大きな関心を集めていますね。
相澤:ええ。赤木さんの1周忌直後の昨年3月に、彼の上司である池田さんが自宅を訪れ、妻の雅子さんに国有地売却や改竄の経緯を説明した時に録音したもので、2時間もの長さがあります。
古賀:池田さんの発言内容は今年3月に、相澤さんが雅子さんを取材し、大阪日日新聞や週刊文春などに記事として詳しく伝えていますが、生の音声データが公開されるのは初めてと聞きました。
相澤:雅子さんは現在、国と佐川宣寿元理財局長を相手に裁判を起こしていて、音声データはその証拠として10月14日に提出する予定でした。すると、そのことを聞きつけた大阪のあるテレビ局が音声データをほしいと言ってきたんです。ただ、1社に出すと、他社もほしいと押しかけてくるだろうと。だったら、どうせ裁判で公開するものだし、地裁内の司法記者クラブに提供して報道してもらおうということになったんです。
古賀:赤木さんは、とても強い人だったと思います。改竄を苦にして自ら命を絶ったために、精神的に弱かったと言う人もいるけど、それは違う。赤木さんが遺した手記を読むと、改竄に至るまでの一部始終を、そして真実を伝えたいという強い思いが溢れている。これって命がけの告発ですよ。こんなすごいことをできる人が弱いはずがない。
相澤:うん、あの手記は遺言なんかじゃありません。事実上の内部告発ですよね。文書の改竄にあたり、誰がどんな発言し、どのように行動したか、実名入りで詳細に記してある。対照的なのが、財務省が事件後に作成した「改竄に関する調査報告書」です。51ページもの分厚さがありながら、個人名はいっさい出てきません。主語は「課長」や「職員」、あるいは「××室」などばかりで、誰が何をしたのか、具体的なことはまったくわからない。それでいて、「新たにわかった事実はなかった」と結論づけているのだから呆れます。真実を明らかにしようと最期まで戦った赤木さんとはまるで覚悟が違う。
古賀:生前に「僕の雇い主は日本国民。国民のために仕事する公務員を誇りに思う」と、周囲に口ぐせのように語っていた赤木さんだからこそ、改竄に最後まで抵抗し、最後は孤立して自死へと追い込まれてしまった。その意味で、私は赤木さんは財務省に殺されたんだと思っています。
相澤:忖度する人にとって、正論を言う人は目障りな存在なんですよ。だから赤木さんも煙たがられ、警戒され、異動願いも無視され続けた。そうやって組織内で追い詰められた。僕も赤木さんは見殺しにされたと思っています。遺族の雅子さんも同じ思いでしょう。誰かが直接手を下したわけではないけど、夫は自死へと追いつめられたんだと考えている。一種の口封じです。ただ、手記が遺されていたので真実の一端を知ることができたというわけです。とはいえ、赤木さんは近畿財務局のノンキャリで現場の人。財務相本省など上部の動きはわからない。だからこそ、雅子さんは真実を知りたいと裁判を起こしているんです。
古賀:裁判を通じて公文書改竄のプロセスが明らかになる意義は大きい。なぜなら、今回の一件は赤木さんの問題だけで終わらせてはいけないからです。すべては霞が関と永田町という政官界の仕組みの中でおきたこと。なぜ改竄が起きたのか、どうして赤木さんが死ななくてはならなかったか、何らかの方法で検証すべきです。それができないと、今の仕組みがそのまま温存され、第2、第3の赤木さんが出てしまう。