「他人の心の中を自分のものさしで測るのはやめてほしい」24歳のうつ病患者が語る、4年間の苦悩

 新型コロナウイルスが流行し始めてから半年以上が経過したが、いまだに終息を迎える様子はない。いつまで続くかわからない暗澹たる空気に不安やストレスを感じている人が多いことはもはや言うまでもなく、「コロナうつ」という言葉も近頃よく耳にするようになった。  5月28日から6月22日までに株式会社ジャパンイノベーションが行った調査によれば、「各年代の全体のうつ病の可能性がある人の割合の合計(軽度〜重度合計)を比較すると20代が65.2%と最も高く、以降年齢が高くなるにつれうつ病の可能性がある人の割合の合計(軽度〜重度合計)は低くなっていく傾向」があるという。  厚生労働省の患者調査によれば、2017年の時点では他の年代に比べ20代のうつ病患者数は多くはなかったが、この状況下で若い世代が抱く将来への不安が如実に姿を現したとも言えるだろう。  では一体うつ病になったとき、人はどのような状態に陥るのか。現在も精神科に通いうつ病の治療を続ける佐藤澪さん(仮名・24歳)に話を聞いた。
うつ病

画像はイメージです

大学の最寄り駅まで行っても、そこから先に進めない

「うつ病という病気があること自体は知っていたが、まさか自分がなるとは思っていなかった」という佐藤さん。心の状態がいつも通りでないことにはいつ頃気がついたのだろうか。 「大学2年生あたりから、急に大学に行けなくなってしまったんです。それまでは授業もほとんど休んだことがなかったし、課題にもテスト勉強にも真面目に取り組んでいました。なのに急に朝起きてベッドから起き上がれなくなったり、大学の最寄り駅まで行ったのにどうしてもそこから先に進めず、家に帰ってしまうようになりました。結局単位を取れるギリギリの日数だけ講義に出るようになって、成績も落ちてしまって。『今までそんなことなかったのに、おかしいな』と思いました」  佐藤さんは突然それまでの生活が難しくなったことで、心の不調に気がついたという。そこで訪れたのは、精神科や心療内科ではなく大学の学生相談室だった。 「自分の症状がどれほど深刻なのかわからなかったので、いきなり病院に行って『遊びに来るところじゃない』って怒られたらと思うと不安でした。大学で心理学系の授業をいくつか取っていたので、大学に学生相談室という場所があることは知っていて、病院よりは気軽に行けるかなと思ってメールで予約しました。迎えてくれたのは女性の臨床心理士さんでした」

自分が何を感じているのかわからない

 そこで担当の臨床心理士と相談し、週1回カウンセリングを受けることになった佐藤さん。しかしながら、困ったことがあったと話す。 「何を話していいか、全くわからなかったんです。日常の中で自分を揺るがす大きな出来事があったわけではなかったので、学校に行けない原因、憂鬱な原因がわからなくて。ずっと頭に靄がかかってるみたいなんですよね。自分が何を感じて、考えているのかわからない。臨床心理士さんも自分から話しかけてくるということはほとんどなかったので、50分のうち40分くらいふたりとも沈黙しているときもありました」  その後も週1回カウンセリングに通い続けたが、やはり思うように話すことができず、長期休みを機に通うことをやめてしまったという。そしてゆっくりと坂道を転がり落ちるように、佐藤さんの精神状態は悪化していった。 「唯一の趣味と言えるのが映画鑑賞と読書だったんですが、どちらもできなくなりました。頭に入ってこなくて。映画は内容をすぐに忘れてしまうし、本を読んでも一つ前の文に何が書いてあったか思い出せないんです。目は字を追っているのに、字を文章として認識できないんです。脳が拒否しているみたいでした」
次のページ 
病院へ行くも診断名は告げられず
1
2
3
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会