為政者の不正と横暴に抗議の声続々と。在日ベラルーシ人が語る「抗議がここまで広がった」ワケ

大統領への抗議が続くベラルーシ

Protests in Belarus

(adobe stock)

 8月9日の大統領選における不正疑惑に端を発し、大規模な抗議が繰り広げられたベラルーシ。9月24日には26年間にわたり同国を統治してきたアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が就任式を強行したものの、未だ民衆の抗議行動はおさまらず、10月4日にも政治犯の釈放を求めてのデモが展開されるなど、いまだ状況は激動の中にある。人口約950万人の一国家の政治情勢が、世界から注目を浴びている。  国際情勢に目を転じると、大統領選前にベラルーシ側がロシアの民間軍事会社・ワグナーグループに所属する32人の傭兵を拘束するなどの事例もあったが、現在ではウラジーミル・プーチン大統領はルカシェンコ大統領への支持を表明している。  一方で米国はベラルーシの内相ら8人に対し資産凍結、取引停止などの制裁対象に指定するなどの動きがある。EUはルカシェンコ大統領個人は外したものの、資産凍結など約40人に制裁を加えている。  ルカシェンコ大統領が就任してもなお止まない、ベラルーシでの抗議行動の背景には何があるのか。  海外の論説を見てみよう。ベラルーシの2人のアクティビストの談話を載せたニュースサイトのJacobineによれば、当局も当初選挙での不正に対しここまで民衆が反応するとは思っていなかったという。アクティビストのひとり、クセニア・クニツカヤはその理由としてまず、「四半世紀にわたるルカシェンコ大統領の統治に対し、まず人々が“疲労”を蓄積させていること」を挙げている。  また、新型コロナウイルスに対する政府の対応にも人びとの間に不満があったという。ルカシェンコ大統領は新型コロナウイルスに対し、「コロナは心の病」であり「ウォッカやサウナが効く」との発言をしているが、アメリカのドナルド・トランプ大統領、ブラジルのジャイール・ボアソナロ大統領と同様に、その影響を無視ないしは軽視するものだ。ある種の権威主義的な政治指導者が新型コロナウイルスのリスクを執拗に否定するのはなぜかも興味深いところだが、それは置いておこう。  ベラルーシの反体制派としては、8月の大統領選でルカシェンコ大統領を破ったと主張するスベトラーナ・チハノフスカヤ氏がいる。現在はリトアニアに滞在しているが、ベラルーシの安全保障を損なう呼びかけを行なったとして、ロシアから指名手配を受けている。  この状況を今回の抗議行動をベラルーシの人びとがどのように受け止め、どのように行動しているのか。日本に居住するベラルーシ出身者の話を伺った。

「私たちはベラルーシ人だ」という意識の高まり

 ベラルーシの抗議行動は大統領の就任後も続いているが、報道では、チハノフスカヤがベラルーシの抗議行動のアイコンとなっているように見える。 「チハノフスカヤにはアジェンダがありません。銀行やIT系企業に勤めるような層の支持が強いという印象です。ヨーロッパ諸国と同じようになりたい、というような。ただ、抗議行動の側も、(不正選挙に反対するというような要求を超えて)具体的な問題の話になるとケンカになるので、そのあたりの話はあまり出ません」  大規模化、大衆化した抗議行動ゆえの、ある種の「危うい連帯」もあるということか。ルカシェンコ大統領という人物への印象はどうか。  「ベラルーシのナショナリスト、というより、権威主義者という感じです。ベラルーシの人々を軽蔑していて、そして国家を私物化しているというような」  ベラルーシの昨今の状況を見ていると、旧ソ連圏の政治的抗議としても、ウクライナの「オレンジ革命」のような、親西側志向があまり見られない印象があるが、ベラルーシの人びとの民族的な意識のありどころはどうなのだろうか。 「ウクライナに比べて、ベラルーシの民族意識は強くありません。(ウクライナでも東部は親ロシア的、というように言われることもあるが)ベラルーシの民族意識は、ウクライナ東部のそれに近いです。教育でも、ロシア語こそが美しい言葉とされていて、そこでベラルーシ語を話そう、というのは学校のクラスでも1クラスで2人程度、『意識の高い』ハイクラス系の人たちだけでした。  文学に目を向けても、ベラルーシ文学を作ろうとした人もいたのですが、自分たちの生活のし辛さの中から民族意識を作り出そう、というもので、21世紀に生きる私たちからするとなんとも言えないものです…。  でも、今の抗議行動のなかで、人びとの中での『私たちはベラルーシ人だ』という意識が強まっているのも確かです。ルカシェンコはロシア語しか喋らないし」  2011年の「アラブの春」以来、昨今のBLM(ブラック・ライブズ・マター)に至るまで、SNSの発信力が多くの人びとを政治への抗議に動かす、ということは広く認められているが、ベラルーシでの抗議行動でもまた、警察の暴力や政治状況への怒りを共有するのに、SNSが大きな力を果たしている。 「Telegram(テレグラム)というチャットアプリがあります。とにかく情報量がすごい。たとえば職場などの仲間と情報交換をしますが、中には弱気なものもあります。でも、そういう空気に流されないように、とにかく場を盛り上げていく、という感じでしょうか。SNSで武装警察の人間や車両のナンバーの共有もしていますね。Telegramの一番大きいチャンネル、Nexta Live(ネクスタライブ)というデモの様子を発信するチャンネルには、ベラルーシ内外の200万人が登録しています。
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