武道館でのイベントはMCバトルの魅力を損なう? Lick-G と語る「ブームの功罪」<ダメリーマン成り上がり道 #36>

 戦極MCBATTLE主宰・MC正社員が、MCバトルのシーンやヒップホップをビジネスやカルチャー面から語る本連載。今回は21歳のラッパー・Lick-Gとの対談の最終回だ。今のMCバトルを「予定調和」と語るLick-G。MC正社員はバトルへの再参戦の説得を試みるが……結末はいかに?

今のMCバトルは「予定調和の極み」?

MC正社員(左)とLick-G(右)

MC正社員(左)とLick-G(右)

MC正社員(以下、正社員):「音源でバズってバトルに出なくなった人のなかには、バトルのことを悪く言う人とかもいるじゃん。昔はめっちゃ出てたのに、音源を出したあとはインタビューですごい悪口言っていて、『自分が出てたのに何でそんなこと言うの?』って思うんだけど。Lick-Gはバトルに出なくなっても、自分からはそういうことは言わないじゃん。バトルに対しては感謝のほうが多いんじゃない?」 Lick-G:「それはそうですね。さすがに感謝はあります正社員:「この先のMCバトルにはどうなってほしいと思う?」 Lick-G:今のMCバトルは予定調和の極みになりつつありますよね。本当はフリースタイルもMCバトルも、それと正反対の面白さがあるはずのものなのに。その変化の流れにラッパーも巻き込まれてるし、『それはマズいだろ』って思ってます。『お客さんも本当に楽しめてるのかな?』って思いますし」 正社員:「お客さんは楽しんでいるよ。予定調和に見えるかもしれないけど、そこにはその日その日の大会の流れとか、ドラマもあるわけだし」 Lick-G:「そういう要素が入ってくると、バトルの見方も変わってきますよね。フリースタイルのラップはスリルを楽しむものだし、MCバトルもバチバチに戦うときのハラハラ感が面白いわけじゃないですか。今はお客さんが増えても、そういうよさが消えている感じがします」 ――その「予定調和っぽさ」は、ご自身がバトルに出はじめた7年ほど前と比べて強まっていますか? Lick-G:「どうですかね……。いま話していて気づきましたけど、自分がバトルに出始めたころ、勝敗に納得ができなかったのも、同じ予定調和のせいかもしれないです。もともとMCバトルはヒップホップのなかのサブカルチャーの位置づけで、もともと予定調和な部分とか、余興的な要素があったと思うんですけど、それがシーンが大きくなるなかで拡大されて見えているだけなのかな、と」 正社員:「あと、さっきからLick-Gがバトルについて『予定調和』って言葉を使ってるけど、バトルが支持されているのは、楽曲にはないドラマ的な要素があるからだと思うんだよね。やっぱり、2人のMCが戦っている熱量とか、会場の空気とか。それが言い方によっては『予定調和』に見えるのかもしれない

「またMCバトルを」の声を消したい

正社員:「この先、Lick-Gがまたバトルに参戦することはないの?Lick-G:ないですね。このインタビューでも繰り返し言ってますけど、やっぱり『客観的に見ても自分が勝っている』と思うバトルでも負けることがあるし、勝敗がついたらお客さんはその結果しか見ない。今のバトルは、より会場の空気に左右される環境になってきてるし、そういう場所に身を置くのはちょっと……と思います」 正社員:「俺はLick-Gに戻ってきてほしいけどね。正直に言う。戦極に出てほしい!Lick-G:出ないですね。大会に出ても優勝しないと意味がないですし、『もうバトルに出ない』という決断も、ここまで話してきたような違和感をずっと感じ続けていて、それでもずっと出続けたあとでの話ですから」 正社員:「曲のリリースのタイミングとかで出てほしいけどなぁ」 ――今でも「バトルに出てほしい」とはよく言われますか? Lick-G:「そうですね。でも今は自分の音源の底力で勝負をしたいし、そこでいいものを作れれば、『またバトルに』という声も聞こえなくなると思います」 正社員:「まあそうだね」 ――会場の空気に左右される観客の判定ではなく、審査員の判定だったり、もう少し客観的な判定が行われるバトルだったら、出てもいいかな……という気持ちはありますか? Lick-G:「うーん。そういうシステムの大会では、実際に優勝できたことが多いんですけど、審査員がいても会場の雰囲気に流されることはあるんですよね。僕としては勝敗がつくこと自体がもうNGなので、やっぱり出ないです」
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