菅野氏がハンストを開始した翌日の10月3日。私は官邸前に向かった。
カメラ機材を入れたリュックに、私が主宰する「
やや日刊カルト新聞」のトレードマークである
ヘルメットをぶらさげていた。トークイベントやデモの際にかぶっているもので、「やや日」と大きく書いてある。服装は至って普通。シャツにジャケットだ。当然だがゲバ棒になるような棒の類は持っておらず、それ以外の武器類もリュックの中にない(私はもともとそのような活動の経験もない)。
やや日刊カルト新聞のヘルメット・コレクション
総理官邸前交差点から溜池山王駅方面に150メートルほど坂を下ったところにある内閣府下交差点。ここから官邸の敷地沿いの歩道を歩いて総理官邸前交差点に向かおうとしたところ、数人の警官が立ちふさがってきた。
警察「どちらに行かれます?」
私「
官邸前です」
警察「工事とかされます? ヘルメット持ってるので」
私「工事はしません」
警察「アポイントとかは取られてます?官邸の」
私「
官邸の前に行くんですけど。首相には会いに行くわけじゃないんですけど」
警察「すいません、中だと思ったんで」
私「最初から官邸前って言ってるじゃないですか」
交差点に行くのにアポイントを取る人間がどこにいる。
他の通行人たちが次々に通り過ぎていく。私だけが警察に止められ、警官の数はどんどん増えていく。
誰もが当たり前に歩いている歩道で筆者を取り囲む警察官たち
法的根拠を尋ねても警官は無言。「警備上の理由」と言う警官もいたが、「市民の権利を制限する法的根拠がある警備上の理由なのか」と尋ねると、やはり無言になる。
途中から応援に駆けつけた警官から「藤倉さんですよね。私、春まで高輪署にいまして」と言われた。私は高輪署管内の幸福の科学施設前で取材や抗議活動を何度も行っており、幸福の科学から何度も警察を呼ばれている(うち刑事事件化したケースはゼロ)。その関係で覚えてくれていたようだ。
いずれにせよ、テロリストでも過激派でもなく「
たまにデモることもあるジャーナリスト」であることがはっきりしたが、それでも通してもらえない。ヘルメットの文字は抗議の言葉でもセクト名でもなく、官邸前で声をあげたりする気もないことを説明した。
警官たちは、ここまで私を警戒しておきながら「藤倉さんですよね」の警官が現れるまで
誰一人として私の素性を尋ねず、ヘルメット持参であることを警戒しているのにヘルメットに書かれた文言も確認しなかった。彼らの目的が、違和感を抱いた対象への「確認」ではなく
問答無用の通行阻止にあったことは明白だ。根拠も、実際の危険の有無も、どうでもいいのである。
警官「それで飲み込めました。抗議活動する人たちもヘルメットかぶったりするもんですから。抗議活動とかをしたことはないということですね」
私「いや、抗議活動をやったことはありますよ」
ヘルメットを持っていようが過去に抗議活動をしたことがある人間であろうが、
誰もが通れる歩道を歩くのは自由だ。
30分近く揉めた末、警官が同行することを条件に通してくれることになった。数人の警察官に取り囲まれてVIP気分で官邸前にたどり着いた。
車道の対岸(車道を挟んで官邸の向かい)で、菅野氏とは別のグループも抗議集会を開いていた。こちら側からだと、その全体像がよく見える。
官邸沿いの歩道を歩くことにこだわったのは、このためだ。この角度からの写真はここからしか撮影できない。警察がここまでして通行の妨害をするということは、現地到着後に官邸側へと横断歩道を渡ることも妨害されるだろうと考えた。実際、予測した通りであることが後でわかった。
官邸前で抗議集会をしているグループのすぐ脇に、菅野氏がいた。その前で夜までネット中継をした。
官邸側に渡る横断歩道では、抗議活動に参加あるいは接触した人間を警察が渡らせないようにしていた。横断歩道の手前で抗議集会を撮影しているだけで、警官から「通行の邪魔」という口実で移動させられる。横断歩道を塞いでいるのはむしろ警官たちなのだが。
警察に目をつけられた人以外は誰もが自由に渡れている、首相官邸前の横断歩道
夜。菅野氏の支援をしていた男性が、買い出しのために官邸前の横断歩道近くでタクシーを拾った。
警官が、官邸から離れた方の道路を指差して「あっちでタクシーを拾え」と指図した。キレた男性が警官に詰め寄る。
「あっちにタクシーなんて走ってないじゃないか!」
警官に詰め寄る男性
ロケット砲をぶっ放してタクシーで逃走しようとしているわけでもない。ここでタクシーに乗ったところで、官邸の警備に何の影響もない。
明らかに、
抗議活動関係者(と警察がみなした人物)への嫌がらせだ。逆に、官邸に用がある(もしくは抗議活動と無関係な)人物に対しては違法行為すら黙認する。
料理の配達なのか、大きなリュックを担いだ自転車が官邸前の交差点にやってきた。警官と何か言葉をかわすと、
赤信号を無視して交差点を渡って官邸方面へと消えていった。交差点を取り囲むように警備している警官たちの誰一人として、その自転車に注意しなかった。