2つ目の違和感は「
総合的・俯瞰的」という発言について。菅首相は計6問の質問に対する回答でこの表現を使用しており、
「総合的・俯瞰的」というフレーズが出てきた回数は実に10回以上にのぼった。質疑の中でどのように発言していたのか、具体的に見ていきたい。
〈*記者の質問は要約して記載する。菅首相は発言のまま記載するが、質問と直接関係ない箇所や「総合的・俯瞰的」というフレーズが出てこない箇所は適宜省略して(中略)と記載する〉
<1問目>
記者:「政府としてはいつ、何をきっかけに形式的任命を取らなくなった?」 (3:10)
菅首相:「(中略)日本学術会議は(中略)
総合的・俯瞰的な観点から活動すること、こうしたことが求められてきています。 (中略)こうしたことを踏まえて、法律に基づく任命を行う際にはですね、
総合的・俯瞰的な活動、すなわち、広い視野に立ってバランスの取れる活動を行っている。国の予算を投じる機関として国民に理解される存在であるべき。」(4:21)
<2問目>
記者:「総理自身が梶田会長とお会いし、任命を見送ったことを説明する考えは?」(6:04)
菅首相:「日本学術会議については(中略)相当のこれ議論が行われた経緯があります。その結果として、
総合的・俯瞰的な活動を求める、まあそういうことになった経緯です。 (中略)さらに、この
総合的・俯瞰的活動を確保する観点から、日本学術会議にその役割を果たしていただくために、まあふさわしいと判断をされる方を任命をしてきました。」 (6:20)
<3問目>
記者:「総合的・俯瞰的な活動とは具体的にどのような活動を求めている?」(7:30)
菅首相:「(中略)
総合的・俯瞰的な観点から行動すること。このことが議論の中で求められてきたわけです。(中略)これを踏まえて、法律に基づいて任命を行う際には、
総合的・俯瞰的な活動、すなわちですね、広い視野に立ってバランスの取れた活動を行い、国の予算を投ずる機関として、国民に理解される存在であるべきこと。こうしたことをやはり念頭に置きながら、これは判断を行う必要がある。」(8:10)
<4問目>
記者:「具体的には専門以外のどのような業績が考慮される?」(9:35)
菅首相:「自らの専門分野の枠にとらわれない俯瞰的な視点を持って、社会的課題に向き合うことができる人材が望ましい。(中略)
総合的・俯瞰的な活動、今申し上げましたけど、この
総合的・俯瞰的な活動というのは、やはり、すなわちこの広い視野に立ってバランスの取れた活動を行い、国の予算を投ずる機関として国民の理解をいただく存在であるべきだと 」(9:44)
<5問目>
記者:「総理が形式的な発令行為を行うとする83年答弁の解釈に変更はない? 」(12:28)
菅首相:「(中略)解釈変更を行っているものではないという風に思ってます。(中略)日本学術会議がこれまで言われてきたような、
総合的・俯瞰的、いわゆる今申し上げましたけれど、広い視野に立ってバランスの取れた活動を行い、国の予算を投ずる機関として、国民に理解される存在であるべき」 (13:50)
<6問目>
記者:「今後の任命でこの6人が出てきた場合に対応が変わる可能性はある?」(18:00)
菅首相:「まず仮定の質問でありますので、ここは控えさせていただきたいと思いますけれども(中略)日本学術会議がこれまで言われてきたように、
総合的・俯瞰的な活動、いわゆるこの幅広い視野に立ってバランスの取れた活動を行い、国の予算を投ずる機関として、国民に理解される存在であるべきである」(18:08)
見ての通り、
質問内容は変化しているのに菅首相は頑なに「総合的・俯瞰的」というフレーズを多用して回答している。そのため、ほぼ全ての質問において、
質問と回答が噛み合っていない。全く質問の回答になっていない。
3つ目の違和感は「
長期的・総合的・国際的」という発言について。菅首相は計5問の質問に対する回答でこの表現を使用していた。質疑の中でどのように発言していたのか、具体的に見ていきたい。
〈*先ほどと同様、記者の質問は要約して記載する。菅首相は発言のまま記載するが、質問と直接関係ない箇所や「長期的・総合的・国際的」というフレーズが出てこない箇所は適宜省略して(中略)と記載する〉
<1問目>
記者:「会員の推薦制度や学術会議のあり方について見直すお考えはありますか?」(0:37)
菅首相:「(中略)その議論の中で、
長期的・総合的・国際的観点からの提言が求められており、俯瞰的な視点を持って、社会的課題に向き合うことができる制度、まああの、できる人材が望ましいという風に思っています。 今回、日本学術会議の役割に関心が集まっています。まあこれを機会に、日本学術会議のあり方、良い方向に進むようなら、そうしたことも歓迎はしたいと、このように思っています。」
<2問目>
記者:「政府としてはいつ、何をきっかけに形式的任命を取らなくなった?」(3:10)
菅首相:「(中略)日本学術会議は科学者の知見を集約をして、
長期的・総合的・国際的観点から、行政や社会への提言を行うこと、総合的・俯瞰的な観点から活動すること、こうしたことが求められてきています。(中略)」(4:21)
<3問目>
記者:「総合的・俯瞰的な活動とは具体的にどのような活動を求めている?」(7:30)
菅首相:「(中略)この日本学術会議、ここをどうするかということで議論があったわけです。それで、まあ科学者の知見を集約をして、まあ
長期的、また総合的に、国際的観点から、行政や社会への提言を行うこと。 」(7:53)
<4問目>
記者:「日本学術会議のあり方を見直して、法律の改正を考える可能性は?」(10:52)
菅首相:「かつて総合科学技術会議の意見具申には、日本学術会議、これ総合科学技術会議の中で意見があったわけです。それについては、科学者の知見を集約し、
長期的・総合的・国際的観点から、行政や社会への提言を行う、こういうことがこれ求められています。 (中略) 」(11:06)
<5問目>
記者:「日本学術会議が2017年に軍事研究に協力しないと声明を出したことを総理はどのように評価されている? 」(18:43)
菅首相:「日本学術会議のあり方ということに省庁再編の際にですね、これ、相当な議論があって、その議論で、
長期的・総合的・国際的観点からの提言、これ求められてます。そして俯瞰的な視点を持って社会的課題に向き合うことができる人材が望ましい、こうしたことがこの2001年の省庁再編の際に話し合われました。日本学術会議の役割に今非常に関心が集まっています。これを機会にですね、学術会議のあり方というのが良い方向に進むようなら、そうしたようなことは歓迎をしていきたいという風に思います。」(19:04)
こちらについても見ての通り、
「長期的・総合的・国際的」というフレーズが繰り返し出てくるが、ほぼ全ての質問において、質問と回答が噛み合っていない。
こうした3つの違和感を通して見えてくるのは、菅首相は基本的に
事前に用意された原稿用紙をただ読んでいるだけということだ。自分の頭で考えて自分の言葉で回答していれば、質問内容は変わっているのに同じフレーズがここまで繰り返し出てくることはあり得ない。しかも、質問に回答していないことを指摘する記者はいない。しかし、ここまでお膳立てされても1つ目の違和感で述べたように整合性のとれない発言をしてしまい、墓穴を掘ることがある。
菅首相は官房長官時代も事前に提出された質問に対して用意された回答を棒読みするだけの記者会見を長年続けてきたこともあり、やはり
自分の頭で考えて自分の言葉で回答する能力は持ち合わせていないと見受けられる。
当時の記者会見映像を見れば分かるとおり、菅氏は常に手元の原稿に視線を落として、原稿を読みあげながら回答することが常であった。こうした会見を長年に渡って続けていれば、もともと低かったと思われる答弁能力が全く改善しないのも当然だろう。
*菅氏の官房長官時代の約10本の質疑映像は筆者のYoutubeチャンネル「
赤黄青で国会ウォッチ」で視聴できる。
大手メディアは菅首相を官房長官時代に朗読会のような記者会見で散々甘やかした上、総理就任後には世界的にも聞いたことがないほど閉鎖的で生ぬるい「
グループインタビュー」 という密室での会合を受け入れてしまったことで、
国民の知る権利を侵害し、菅首相の答弁能力のさらなる劣化も手助けしてしまっていることをしっかり認識すべきだろう。
<文・図版作成/犬飼淳>