「グループインタビュー」という異常なメディア対応で繰り広げられた菅首相の回答を信号無視話法分析

「根拠なき言い切り」を繰り返すだけの菅総理

 1問目は全く回答になっていなかったため、読売新聞と日経新聞の記者が別の話題の質問をした後、北海道新聞の記者は日本学術会議への人事介入について再質問する。その質疑は以下の通り。 2問目 北海道新聞サトウ記者:「えー、日本学術会議の先ほどの質問に、ちょっと、あのー、改めて聞きたいと思うんですけども、あの、先ほどお答え頂いたんですが、あのー、まあ、とはいえ独立の機関であって、あのー、研究者の中では学問の自由の侵害ではないかという、えー、指摘があります。これに対してのお考えとですね、あと、この6人の方の政府提出法案に対する立場というものは今回の人事と関係ないということでいいのか。あと、この人事は総理に持ち込まれた案の段階では既にもう6人を任命しないということだったんでしょうか。」 菅首相:「あのー、今申し上げました学問の自由とは全く関係ないということです。それは、どう考えてもそうじゃないでしょうか。青信号)  まあ、それと先ほど私申し上げましたけれども、まず国の予算が10億円あるということです。そして任命される会員は公務員の立場になります。そうした中で、その人選、推薦委員会の仕組みはあるものの、現状では現在の会員が自分の後任を指名すること。このことも可能な状況になっているということなんです。黄信号)  そういう中で推薦された方々をそのまま任命をする。この責任というのは、これ内閣総理大臣にあるわけでありますから、そこについて前例を踏襲してよいのか、これは考えてきました。青信号そして、先ほども申し上げましたように、この日本学術会議というのは省庁再編の中では大議論を行ったところです。その結果として、総合的・俯瞰的活動を求めることにこれなってますから。黄信号)  ですから、総合的・俯瞰的に活動を確保する観点から、今回の任命について判断をしたということです。今、6人の方、あー、について、いろんなことがありますが、そういうことは一切関係ありません。まさに総合的・俯瞰的活動を確保する観点から判断をした。これに尽きます。青信号) 」  またしても、2段落目、4段落目は日本学術会議に関する周知の事実を述べているだけのため、黄信号とした。  1段落目、3段落目、5段落目は青信号としたが、こちらも1問目と同様に実質的にはゼロ回答に等しい。 ●1段落目  学問の自由とは全く関係ないと述べるが、根拠については何の言及もなし ●3段落目  前例を踏襲すべきか考えてきたと述べただけ ●5段落目  総合的・俯瞰的活動を確保する観点で任命を判断したと述べただけ  菅首相は2回にわたって回答したが、質問されていた主な問題点(任命拒否の理由、学問の自由の侵害という指摘への考え、任命拒否された6名が政府提出法案に反対したこととの関係、法律解釈の変更など)についての理解は全く深まらなかった。その一因として、菅首相は「学問の自由とは全く関係ない」「6人の任命判断とは一切関係ない」などと主張するが、その根拠を全く述べないことにある。さらに、記者が再質問してもほとんど同じ内容を繰り返す。1問目と2問目には一字一句に至るまでほぼ同じ回答が度々見受けられた。

同じ言葉を繰り返すだけの菅首相の「リピート答弁」

 以下、1問目と2問目で一字一句同じようをリピートして回答していた箇所を抜粋する。 *全く同じ内容は赤字で記載する リピート答弁 1問目:また 任命される会員は公務員の立場になること。また会員の人選推薦委員会などの仕組みはあるものの現状では事実上、現在の会員が自分の後任を指名することも可能な仕組みとなっている 2問目:そして任命される会員は公務員の立場になります。そうした中で その人選推薦委員会の仕組みはあるものの現状では現在の会員が自分の後任を指名すること。このことも可能な状況になっている 1問目:こうしたことを考えて、推薦された方 をそのまま任命してきた前例を踏襲してよいのか考えてきました2問目:そういう中で推薦された方々をそのまま任命をする。(中略)前例を踏襲してよいのかこれは考えてきました1問目日本学術会議については省庁再編の際に(中略)議論が行われ、その結果として総合的・俯瞰的活動を求めることになりました。まさに総合的・俯瞰的活動を確保する観点から今回の任命についても判断をさせて頂きました。 2問目日本学術会議というのは省庁再編の中では大議論を行ったところです。その結果として総合的・俯瞰的 活動を求めることにこれなってますから。ですから、総合的・俯瞰的に活動を確保する観点から今回の任命について判断をしたということです。  見ての通り、この抜粋した箇所は半分以上の文字が一字一句に至るまで一致している。この事実を踏まえて言えることは、菅首相は事前に用意された原稿用紙をただ読んでいるだけということだ。自分の頭で考えて自分の言葉で回答していれば、再質問された際にここまで回答が一致することはあり得ない。  菅首相は官房長官時代も事前に提出された質問に対して用意された回答を棒読みするだけの記者会見を長年続けてきたこともあり、もはや自分の頭で考えて自分の言葉で回答すること自体が難しいのだろう。 *官房長官時代の実際の棒読み映像は筆者のYoutubeチャンネル「赤黄青で国会ウォッチ」で視聴できる。  そもそも、このグループインタビュー自体が3社(読売新聞、日経新聞、北海道新聞)しか質問を許されず、他社は別室でその音声を聞くだけという異常な状況で実施された。こうした閉鎖的で異常なメディア対応が続いているのは、質問内容をその場で理解して、自分の言葉で回答する能力が低いことを菅首相も自覚しているからではないか。 <文・図版作成/犬飼淳>
TwitterID/@jun21101016 いぬかいじゅん●サラリーマンとして勤務する傍ら、自身のnoteで政治に関するさまざまな論考を発表。党首討論での安倍首相の答弁を色付きでわかりやすく分析した「信号無視話法」などがSNSで話題に。noteのサークルでは読者からのフィードバックや分析のリクエストを受け付け、読者との交流を図っている。また、日英仏3ヶ国語のYouTubeチャンネル(日本語版/ 英語版/ 仏語版)で国会答弁の視覚化を全世界に発信している。
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