日本大学 危機管理学部・スポーツ科学部(adobe stock)
裁判傍聴を続けていると、しばしば著名人の裁判に出くわすことがある。最近だと、金融トレーダーの「KAZMAX(カズマックス)」、新井浩文、秋元司、河合夫妻などがあったが、傍聴券を求める人はやはり多く、抽選が行われる。
そんなもの当たる気がしないので、普段は無視してそそくさとほかの法廷に向かうのだが、今回の「爆笑問題・太田光」の裁判だけは、ダメ元で抽選をしてみた。用意された26枚の傍聴券に対し、並んだのは249人。抽選倍率は9.6倍と東京藝術大学並みの高さだ。
しかし結果は、まさかの当選。こんなに運がいいのなら、新井浩文の抽選にも参加しておけばよかったとちょっぴり後悔だ。
太田さんに関しては特別大ファンというわけではないが、テレビに出ている太田さんを見て腹を抱えて笑ったことは何度もある。しかしそれよりも、今回の被告は新潮社。出版業界の端くれとしては、そちらのほうが何倍もそそられてしまう。傍聴人入口付近には報道席が10席ほど。みなメモの準備をし、外へ出て編集部に電話をかけたり、ひそひそと打ち合わせをしたりしている。一方、一般傍聴席はアロハシャツを着た若者(ファンだろうか?)や、杖をついた老人など、それぞれ何を目的に抽選に参加したのか気になるメンバーだ。
そこへ神妙な面持ちの太田さんがやってきた。すると、私たち傍聴人に向かって、「プシュー」のポーズ。ファンらしき傍聴人は「待ってました!」とばかりに笑い声をあげ、私も思わず声を出して笑ってしまった。やっぱり太田光は裏切らないなぁ、そんな感じだ。
清原、ASKA、のりぴー、マッキー、田代まさしなどなど。芸能人といえばおクスリ系の裁判の印象がかなり強いが、今回は、原告が太田さんで被告が新潮社。2018年8月に、週刊新潮に掲載された記事をめぐり、名誉を傷つけられたとして損害賠償などを求めた裁判である。
週刊新潮の記事によれば、太田さんの父・三郎さんが暴力団関係者を通じて日本大学芸術学部(以下、日芸)に800万円の金を支払い、太田さんを「裏口入学させた」という。裏口入学の確固たる証拠があるのか? そこが裁判の争点となってくる。
まずは、太田さん側の証人である高校の担任のT先生と演劇部の顧問の先生、そして太田さんが証言台の前に立ち、「嘘偽りなく証言をする」と宣誓をする。なるほど、杖をついた老人はその先生のひとりだった。老人がわざわざ裁判所まで来て、芸能人の裁判の抽選などしないだろう。
宣誓の最後に太田さんがボソッと何かを言っていたが、裁判官の「それでは」と思い切り被り、聞き取れなかった。そして、代理人弁護士からの問いが始まった。そもそも、太田さんはなぜ日芸を受験したのだろうか。
「幼い頃から映画、演劇の才能にたけていまして、言ってみれば天才ですよ。チャップリンに憧れて、そういう職に就こうと思っていました。小6~中1の当時、そういった学科がある大学は日芸くらい。成績はよくなく、行けるか分からないけど行ければいいなとそのときから考えていました」
今回キーとなるのは、父・三郎さんの存在だ。記事によれば三郎さんは、「息子は割り算もできないほど馬鹿なんです」と、裏口入学ネットワークの窓口であったという経営コンサルタントの男に泣きついたとあるが、父と進路について話し合ったことはあったのか。
「父とはほとんど口を利かなかった。進路の話もほぼしなかったが、日芸を勧められたことはある。“専門学校はその周辺の人しか通わないが、大学は各地から人が集まってくる。大学は人と出会う場所だ“と父は言っていました。でも結局、田中くらいにしか出会えなかったんですけどね」
会場にフフッと笑いが起きる。その後の報道によると、冒頭の宣誓の場面では「伊勢谷友介です」と言っていたらしい。「自分は天才」発言といい、オチに田中さんを使ったりと、とにかく、おちょけていないと無理なんだろう。おそらくファンも混じっている傍聴席、速報を打とうとメモを取っている記者たちの前で真面目な受け答えをするなんて、恥ずかしくてたまらないのだろう。それが芸人ってものだ、たぶん。最前列に座っている光代さんはひとつも笑っていないが、太田さんのジョークは止まらなかった。