日本学術会議に対する菅政権の干渉と無批判に礼賛する大衆民主主義が生み出すファシズム。立憲民主主義の破壊を許してはいけない

菅政権、日本学術会議の新会員に、推薦の6名を任命せず

菅

(時事通信フォト)

 10月1日、日本学術会議が推薦した新会員候補105人のうちの6人を、菅義偉内閣が任命しなかったことがわかった。このニュースは赤旗が取り上げたのをきっかけに、各報道機関でも報じられ、批判を呼んでいる。  任命されなかった6人は、歴史学者の加藤陽子、政治学者の宇野重規をはじめ、いずれも人文・社会科学が専門の学者であった。安倍前内閣の安保法制や共謀罪に反対した経歴を持つ学者ばかりで、政権の政治的干渉ではないかと疑われている。アカデミズムを軍事研究に大々的に活用したい現政権に対して目の上のたんこぶとなる同機関に対する締め付けである可能性も指摘されている。  日本学術会議は科学者の連携や国際交流を担う機関で、内閣府に属するが、独立の立場で政策提言を行う。構成員については、日本学術会議法で定められており、日本学術会議の推薦に基づいて、総理大臣が任命することになっている。  この総理大臣の任命権について、推薦された人物を裁量で任命拒否できるかが問題となる。1983年の政府見解によれば総理の任命権は形式的なものとなっており、日本学術会議の独立性を守るためにも、よほどの瑕疵が認められない限り(たとえば論文の盗用が発見された場合など)、原則的に拒否できないと考えるべきだろう。まして、政権与党の政策に批判的であるという理由で任命を拒否するというのは、学問の自由に対する不当な干渉に他ならない。

安倍政権と同様の無法

 安倍内閣を継承した菅内閣は、前政権と同様、違法な振る舞いを公然と行なっている。野党が要求している憲法53条に基づく臨時国会の開催は、いまだ行われていない。条文に期限が定められていなくとも、法の趣旨を考えると可能な限り速やかに召集する義務があるのは明らかであるが、憲法を無視した状態が継続している。  いかなる権力者であっても、いかに選挙という民主的正統性を獲得していたとしても、権力は「法の矩」に服さなければならないというのが立憲民主主義の理念だ。安倍・菅両政権は、この理念を嘲笑い、無視してきた。権力者は、法を無視しようと思えば簡単にできる。無視された法は事実上、その効力を停止する。そして政権の無法が、新たな法として効力を持ち始める。  安倍政権は数々の法を無視してきたが、彼らが初期に手をつけたのが内閣法制局の人事である。内閣法制局は行政における「法の番人」ともいわれ、政府がつくる法案について憲法や現行法体系に照らして問題がないかどうかを審査する。そのとき、たとえ政府の意向にそぐわなくても、憲法解釈上問題があるなら、できないものはできないとはっきりと述べなければならない。その憲法解釈も法学上可能で一貫性のあるものでなければならず、政治の都合でコロコロ変えてはならない。  この内閣法制局の事実上の独立性を担保するのが法制局長官の人事であり、原則として法制局内で出世してきた人物を長官にする慣行が行われてきた。ところが安倍政権は、前例を無視して、集団的自衛権を合憲とする憲法解釈に基づく安全保障政策を取りまとめてきた外務官僚小松一郎を法制局長官として送り込み、従来の憲法解釈を覆させたのだった。  従来の憲法解釈が気に食わず、それを正当な手続きや議論によって覆せないとわかっても、人事に手を入れて法の番人を手懐けて政権の「番犬」にしてしまえば、とりあえずの見た目は合法となる。安倍政権はこのような立憲民主主義を踏みにじるような方法で、安全保障法を通過させた。  立憲民主党の小西洋之議員によれば、内閣法制局は2018年に日本学術会議法における総理の任命権の裁量を拡大する解釈変更を行ったというが、その資料は提示されていないという。だが仮にそれが事実だったとしても、現在の内閣法制局はかつての「法の番人」ではもはやなくなっており、政府の都合で法の解釈を変更する上意下達機関となっている。
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国家の「自己拘束」とそれを無視する実力
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