なぜ韓国作品の日本版タイトルやポスターは「ああなる」のか? 残念過ぎる「改変」の主犯とは

ポスターのわずかな差が映画の意味を変えてしまう

虐待の証明 そして、『虐待の証明』(2020)という、劇中で何が行われるのか一発で分かってしまうこちらの作品の原題は『미쓰백(ミス・ペク)』。  母親から虐待を受け、施設で育った主人公ペク・サンア(ハン・ジミン)。レイプ事件に巻き込まれた際には、犯人の父親が有力者だったため、逆に彼女が刑に服することとなる。出所後も荒んだ生活を送る彼女を、周囲が揶揄し呼んでいた呼び名が「ミス・ペク」である。  この呼び名こそが、彼女がどんな人生を送ってきたかそのものであり、虐待や、過去の経験から生まれる葛藤を彼女がどう乗り越えていくかというストーリーを巧みに表したタイトルだと思う。  そして一見かなり似た感じのポスターになっている気もするが、日本版ポスターの傷・汚れ加工のなんと大げさなことか……。こんなにも悲惨でかわいそうな人たちの物語です、とでも言いたいのだろうか。  主人公は心に負った傷こそあれど、それを乗り越え、自分と同じような境遇の少女を救おうとする力強い姿を見せてくれる。決して、虐待を受けてかわいそう、というところがフィーチャーされている訳ではない。  筆者は今作の韓国での評判を知っていたので観ることにしたが、日本版のタイトルとポスターだけを見ていたら、正直観る気になれなかったであろう。

「無垢」という余計な一言

無垢なる承認 次に紹介するのは、『無垢なる証人』(2020)という作品である。  原題は『증인(証人)』と、これまたシンプルだ。  殺人容疑者の弁護士・スノ(チョン・ウソン)が、容疑者の無罪を立証するため、事件の唯一の目撃者である、自閉症の少女ジウを証人として法廷に立たせようとする中で、次第に彼女を理解していく……というストーリーの映画だ。  邦題の”無垢なる”という言葉は、彼女が自閉症であることを示したいのだろうか。決して悪い意味で使われているわけではないが、自閉症の少女に無垢で純粋であってほしいというファンタジーが投影されているように感じられる。余計な一言に思えてならない。  このように、邦題にするときに、余計な一言を付け加えてしまうパターンも非常に多い。  ポスターについては、“心が近づいたとき、真実が見えてくる”とキャッチコピーにあるように、弁護士のスノが、目撃者であるジウと心を通わしたからこそ、事件は解決に向かったのだし、そして何より今作では、事件の解決よりも、その過程で生まれる二人の心の交流こそが主題なのである。  そう考えると、二人が深刻な表情で反対方向を向いている日本版ポスターより、目を見つめ合いながら微笑んでいる韓国版ポスターが遥かに作品の意図を伝えているように思う。
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