パンデミック本番、「秋の波」に見舞われる世界。世界の研究機関でコロナ第2波はどう報告されているか?

パンデミック本番「秋の波」

 ここで本シリーズにおける用語の定義の変更があります、これまで北半球における8月までのパンデミックの波を第一次パンデミックとし、9月以降のパンデミックの波を第二次パンデミックと筆者は暫定的に呼称してきました。これは1918パンデミックの教訓である「秋の波」とされるパンデミック再来の機序が筆者には判断がつかず、これまで意識的に8月までを第一次、9月以降を第二次と区別してきました。米欧、南米、大洋州、本邦ほかのパンデミックの推移を見ますと「秋の波」は、夏までのパンデミックと同質である連続した現象と考えられます。従って、本稿から以後、第一波、第二波、第三波と連続した呼称にします。  これは、秋になると南半球で変異したウィルスの再侵入によるものであるという仮説ではなく、夏までに定着したウィルスの冷涼化による活発化という仮説を取ることを意味します。  人類史上、インフルエンザなどの季節性を持つウィルスによるパンデミックは、北半球では秋に本格化することが経験的に知られており、1918パンデミック(スペインかぜ)では、第一波で大きな犠牲が出なかったために油断していたところに第二波パンデミックが襲来し、全期間を通して5,000万人から1億人死亡*と推定される甚大な打撃を人類に与えました。当時の地球人口は18〜20億人(参照)で、40人に1人から20人に1人死亡しています。これは、学校ならば1クラスに1名から2名ずつ満遍なく死んだことを意味します。確定症例数は5億人で、4人に1人が感染しましたが、全人類の1/3が感染したという主張もあります。  このため、本邦を除く全世界の保健当局、医療業界、政府の多くは、この「秋の波」に最大の警戒を行い、「秋の波」は来るという前提でCOVID-19パンデミック対策を行っています。実は、数多くあるパンデミック予測のうち、4ヶ月以上の長期予測の幾つかでは、半経験的手法としてこの「秋の波」が経験的に予測へ組み込まれています。その中で有名な例がIHMEによるものです。
1918インフルエンザパンデミック(スペインかぜ)の英国における千人あたり死亡率(‰)の推移

1918インフルエンザパンデミック(スペインかぜ)の英国における千人あたり死亡率(‰)の推移
ppmへの換算は、縦軸を千倍すれば良い
The Effects of the 1918–1919 Influenza Pandemic on Infant and Child Health in Derbyshire, Alice Reid, 2005/02, Medical history 49(1):29-54

秋の波を目前にした世界のCOVID-19パンデミックの実態

 まず世界のCOVID-19感染者数の推移を見ます。データは基本的にOur World in DATAを用いてグラフ表示に直接リンクしますので、詳しくはリンク先のグラフを見てください。自分で操作もできます。
世界におけるCOVID-19百万人あたり感染者数(ppm)の推移

世界におけるCOVID-19百万人あたり感染者数(ppm)の推移(2020/03/01-2020/09/21線形)
Our World in DATAより

 これまで経験的に感染率が50ppm以上になると医療が負荷に耐えられなくなり、俗に言う「医療崩壊」という状態が先進国では見え始めていました。但し現在では、半年を超える経験を得ていますので海外先進国における医療システムの耐久力は、半年前より遙かに高くなっています。  感染率が50ppmを超えると社会機能が大きな打撃を受け、ロックダウンのような厳しい社会的行動制限という形での公的介入が実施されはじめています。現在感染率が50ppmを超えた英国では、ジョンソン首相により再度の全国的ロックダウンを含めた強力な介入が示されており、期間が6ヶ月に及ぶ可能性も言及されています*。 〈*英首相、冬の新型ウイルス対策を発表 「自制心と決意」求める 2020/09/23 BBC〉  欧州においては、既に秋の波が見え始めており、スペイン、フランスと英国で感染者の急増がみられています。一方でイタリアでは8月以降、新規感染者数が増加を始めましたが、よく抑えており、横ばいです。BBCなどで報じられるところでは、8月以降の感染拡大は切掛けがバカンスに依るところが大きく、それが「秋の波」によって急拡大していると考えられています。  現在英国では、このままでは合衆国並みの状況になる恐れがあるとしてPubやレストランの営業時間制限*といった公的な介入(社会的行動制限)が開始されています。BBCが報じるところに依れば、英国では全国的な再度のロックダウンもあり得るとのことですが、フランスなどはロックダウンには消極的とのことです。この対応の違いは、COVID-19感染によって自身が死の一歩手前まで追い込まれ、未確認ながらCOVID-19の後遺症によって苦しんでいるのではないかという報道まであるジョンソン首相の危機感がひときわ強いのではないかと筆者は考えています。余談ですが、COVID-19生還後のジョンソン首相の髪の毛がゴッソリ減っている(なくなっている)写真も報じられており、髪の毛フサフサに日々異変を感じる筆者は恐怖を感じています。 〈*Covid: Pubs and restaurants in England to have 10pm closing times 2020/09/22 BBC〉  合衆国においても、パンデミック対策での大失策により本邦と同じく特異的に発生させた第二波パンデミックが漸く収束に向かっていましたが、9月14日以降に感染者数が急上昇を始めており、「秋の波」=「第三波パンデミック」でないかと強く警戒されています。  合衆国の場合、6月にはBarの再開、9月には学校の再開がそれぞれ第二波、第三波パンデミックの引き金になったと指摘されています。特に大学のキャンパス再開は、週末のパーティー(合衆国の大学キャンパスには、フラタニティとソロリティが存在し、木・金・土・日の週末には様々なグループが集まってパーティーを行う習慣がある)の再開を意味し、これが感染拡大の最大原因となってしまい、大学は対応に追われています*。  合衆国の大学では、大学によって違いはあるものの報じられるところでは、週二回の全員PCR検査(基本的に無料)や、ドミトリー(寮)の下水のPCR検査、感染者の隔離などあらゆる手段を講じていますが、パーティーの前には焼け石に水であり、しかも検査陽性者の集団がでるとその通達の前夜に寮生が「ドミトリーで自主隔離などとんでもない。」と集団で逃亡してしまうなど地域への重大な脅威となっていることが報じられています。2020/09/17にCNN NEW DAYが報じるところ**では、九月のキャンパス再開以来、全米の大学で既に5万人の新規感染者が生じているとのことです。 〈*Coronavirus: 9 UW-Madison fraternities, sororities ordered to quarantine 2020/09/04 WISN CHANNEL 12 MILWAUKEE〉 〈**The psychology behind why some college students break Covid-19 rules 2020/09/09 CNN〉  合衆国の大学では、パーティーをやめさせることは不可能と考えており、大規模PCR検査と隔離に努めていますが、検査陽性にもかかわらず自主隔離を破ってパーティーに参加する学生が続出することまでは想定できておらず、悪質な場合は停学や放校という厳しい対応をしていますが、早々に手に負えない状況となっています。  合衆国の大学生は、たいへんに勤勉でよく勉強しますが、週末にパーティーをしなければ死んでしまう生き物と言って良い程のパーティー好きです。メディアは、日々の報道でもパーティーをやめろとは主張しませんが、マスク無し、社会的距離無し、感染者も参加という実態もあるうえに隔離されそうになると逃亡してしまうという現実に、いくら何でも無謀で無責任に過ぎると連日の報道です。既に再開後わずか二週間の時点でキャンパス再閉鎖、遠隔講義に再転換する大学も現れています。  後日、一部の国と地域については再度より詳しく論述しますが、残念ながら北半球では「秋の波」が見え始めていると言うほかなく、これからどう対策して秋の波を阻止または制圧するかが各国政府と市民の最重要課題と言えます。  1918パンデミック(スペインかぜ)の再現は絶対に起こさないという決意を持つのが本邦を除く世界です。  今回はこれまでとし、次回は本邦の現状について述べます。 ◆コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」新型コロナ感染症シリーズ23:統計と予測編1 <文/牧田寛>
Twitter ID:@BB45_Colorado まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中
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