冷感タオルの性能と関係のない「細かすぎる素材仕様」
しかし、この新型コロナウイルス禍でどの業者も売り上げが落ちてたいへんだったはずです。冷感タオルはそれほどに複雑で高額な商品ではありません。ショッピングサイトで検索すれば何十、何百という冷感タオルが見つかります。なぜ1社しか受注できなかったのでしょうか。
そう思いながら情報開示請求した資料をさらに精査していく中で、ある個所に目が留まりました。それが
「冷感タオルの素材の仕様」です。江東区が入札で指定した冷感タオルの仕様は、
●サイズ 30cm×80cm
●組成 ポリエステル45%、ナイロン55%
●両面とも冷感素材
●同等品も認める
となっています。サイズや両面、同等品の記載に関しては普通の記載でした。しかし「どれだけ冷えるか?」「どれくらい長持ちするか?」という冷感性能の記載がないことと、「組成」の指定が具体的過ぎることの2点があまりにも不自然でした。冷感タオルとは「速乾性が高い素材を用いて、揮発性を高めた工夫を施したタオル」です。ポリエステルとナイロンが速乾性の高い素材なのは確かですが、その配分と冷感性能は一致しません。
ショッピングサイトで人気の冷感タオルを見ると、「ポリエステル100%」「ポリエステル50%、ナイロン50%」と江東区が指定した組成と全く異なる商品がたくさん見つかります。もちろん「ポリエステル45%、ナイロン55%」という商品も見つかりますが少数派です。
この根拠について長寿応援課は「冷感素材の一般的な材質」を記載したと答えましたが、そんな一般論は存在しないと断言できます。
むしろ「冷たい」「長持ちする」と人気の商品は「ポリエステル100%」が多い印象です。「ポリエステル100%」の人気商品の中にはサイズが30cm×90cmと江東区の物とほぼ同じで、258円(税込)で販売しているのもあります。
ちなみに今回、江東区が発送した冷感タオルの総数は
5万7103人分で単価は383円(税込)です。
これだけの高単価で実質的な随意契約なのに、当然あるべき
冷感性能の仕様がまったく盛り込まれていないのです。入札を実行した経理課は「同等品も認めると書いているので、素材を指定していない」と言いますが、それは「何%までの素材の誤差を認めるか」を書いて初めて意味がある言葉です。これは誰が見ても「ポリエステル45%、ナイロン55%」という1%単位の素材指定です。
しかも「同等品」と言っても肝心の冷感性能は記載がないのです。もしも「組成は『ポリエステル45%、ナイロン55%』だけど、揮発性を高める工夫のない冷感性能ゼロのタオル」を納入されても文句を言えないお粗末な仕様です。
「冷感タオルの仕様をある特定の業者の既製品に合わせて指定することで、特定の業者しか入札できないように最初から決まっていたのではないか?」
これが3つ目の重大な疑惑です。
8月の熱中症死者数は過去最悪。山崎区長は救えなかった命の重さを感じているのか?
冷感タオルを送付した封筒
筆者がこの冷感タオルの疑惑について
ブログで公開したところ、大変な反響がありました。「グッド!モーニング」(テレビ朝日)では、8月24日のニュースコーナーにて放映されました。
しかし喜びを感じることはありませんでした。
最も懸念していた「今年の夏は新型コロナウイルス以上に熱中症で亡くなられてしまう方が多いかもしれない」という悪夢が、現実となってしまったからです。
東京都では今年の8月だけで、残念なことに170人以上が熱中症で亡くなりました。これは8月としては史上最悪の数字です。そして、今年の8月に東京都内で新型コロナウイルスで亡くなった方は31人です。「8月」においては、熱中症は新型コロナウイルスの5倍以上恐ろしく、警戒しなければいけないものでした。
江東区でも今年の8月だけで8名が熱中症で亡くなっています。全員が自宅で亡くなられており、熱中症となった主な要因は「屋内でエアコンを使用しなかったこと」でした。さらにこの8名のうち7名が75歳以上で、まさにこの冷感タオルを受け取ったか、受け取るはずの方々でした。
この冷感タオルを配布した封筒には大きな文字で「熱中症対策にお使いください」とはっきり書かれています。
同封されていた説明書には正しいフレイル予防と熱中症対策の記載があったとしても、これを受け取った高齢者の中には「冷感タオルがあるからエアコンがなくても大丈夫だろう」と勘違いした方もいたかもしれません。
もしその結果が新型コロナウイルスを超える数の熱中症死者なのでしたら、これはとても恐ろしい話です。
山崎区長。今でもこの冷感タオル配布が熱中症対策として正しかったと言えますか?
<文/
三戸あや(江東区議会議員)>