誤認を誘う加藤勝信官房長官の答弁手法。その「傾向と対策」

6.終わりに

 こうやって分析していくと、難癖をつけているように感じる人もいるだろう。しかし、加藤氏は意図的にこのようなすり替えを行っている。そのことは、研究職の方に自分で話を聞いていなかったのだから虚偽答弁だと指摘した福島みずほ議員に対して加藤氏が行った言い訳からもうかがうことができる(2018年6月12日参議院厚生労働委員会)。  福島議員は研究職の方の事例について「大臣、これ、この答弁、誰が聞いても、大臣自身が直接聞いたとしか聞けないんですが、虚偽答弁じゃないですか」と指摘したのに対し(参照:国会議事録・第196回国会 参議院 厚生労働委員会 第20号 平成30年6月12日)、加藤氏(当時は厚生労働大臣)は、「どこが虚偽答弁なんですか」「声を把握、把握していると言っているじゃないですか、聞いているなんて言っていないじゃないですか」と開き直っているのだ。  しかしこの時の加藤氏の答弁は、よく見ると支離滅裂である。「例えばというのは、研究職の中にということで例えばという言葉を通じ把握をしているということを申し上げているのであります」というところなどは、何を言っているのかわからない。  2日後の6月14日の参議院厚生労働委員会で再度この件を福島議員に問われた際には、「これ、しかも、見ていただくと、次、改行になっているんですよね、この文章」という珍答弁まで飛び出した(参照:国会議事録・第196回国会 参議院 厚生労働委員会 第21号 平成30年6月14日)。委員会室で口頭の答弁だけを聞いている側にとっては、「改行」などわかるはずもないのだが。  以上を踏まえて、記者会見に臨む記者の方々に向けて、そして加藤官房長官の記者会見を見守るすべての方に向けて、「傾向と対策」を端的に整理しておきたい。 ●丁寧な姿勢には騙されるな ●質問の言葉を引きながら答えていても、必ずしも聞いていることに答えているわけではないことに注意 ●文脈上の誤認を誘う指示代名詞に注意 ●論点ずらしのご飯論法に注意し、ずらされないような聞き方を ●論点ずらしのご飯論法で隠されていることは何かに目を向けよ ●正面から答えずに話をずらすだろうと予想しながら聞き、話をずらしたら、それを指摘してその場で更問いを ●ごまかしに気づいた他の記者は、関連質問として問いを引き継いで追及を ●ひっかかりのある答弁は、文字起こしをして精査を ●その場で気づかなくても、午前の疑問は午後に、午後の疑問は翌日に、再度質問を <文/上西充子>
Twitter ID:@mu0283 うえにしみつこ●法政大学キャリアデザイン学部教授。共著に『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(旬報社)など。働き方改革関連法案について活発な発言を行い、「国会パブリックビューイング」代表として、国会審議を可視化する活動を行っている。また、『日本を壊した安倍政権』に共著者として参加、『緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説 「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』の解説、脚注を執筆している(ともに扶桑社)。単著『呪いの言葉の解きかた』(晶文社)、『国会をみよう 国会パブリックビューイングの試み』(集英社クリエイティブ)ともに好評発売中。本サイト連載をまとめた新書『政治と報道 報道不信の根源』(扶桑社新書)も好評発売中
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