「はじめて見たときに、『カワウソや』と断定した。これはえらいこっちゃと……」
5月6日、中央右に頭を右に向けたカワウソらしき動物が映っていた。赤外線カメラの画像
2016年の目撃以来、高知県大月町の海岸でカワウソの調査を続けている「Japan Otter Club」の大原信明さん(公務員)らは9月16日、高知市内のこうち男女参画センター「ソーレ」で会見を開き、過去4年間に収集した「カワウソ生息の証拠」を公開した。
大原信明さんがその動物に最初に気づいたのは、2016年7月21日の夕暮れ時。
「もしいたらスクープやろ」と大原さんが呼びかけたのをきっかけに、仲間と手持ちのカメラで撮影を試み始めた。
ニホンカワウソは2012年に環境省が絶滅宣言を出している。2017年に対馬に生息するカワウソの動画が発表されたものの、DNAでは韓国のカワウソの仲間という結果もあり、論争を呼んでいる。
大原さんたちが大月町に来た目的は釣りキャンプで、目撃はまったくの偶然だった。その後、仲間3人で同じ海岸に何度も調査に出かけた。
「見たのは100%カワウソ。自信はある」と大原さんは語る。海から出した顔の前半分がつぶれたような形で、下半分が白く動物園で見たカワウソの特徴と同じだった。
会見では、この間に撮りためた動画や赤外線カメラの写真、食痕や巣穴など、最初に見た地域の周辺で得られた複数の証拠を示した。動画では、前面が白い動物が海面に顔を出したり泳いだりする動物の姿が映っている。
調査地点近くでは海に小川が流れ込み、人が近づきにくい場所も多い。集落はあるが人家はまばらだ(筆者も現地に行ったことがある)。3人が直接「カワウソ」だと認識した目撃回数は104日間で6回。
そして2020年5月、近くの小川にしかけた赤外線カメラに、カワウソらしいシルエットが映っていた。これを見て、これまでの調査結果の公表に踏み切った。
調査結果を公表した大原信明さん(後方)、土井秀輝さん
「岸壁のすぐ下にいたときは、寝ぼけていてタモ網を取りにテントに戻った。網ですくえると思ったほど近くだから間違いようがない。ただ客観的に見て、写真の解析から見ても、消去法でカワウソ以外は考えられない」
4年間の調査結果を解説した「Japan Otter Club」の土井秀輝さんは、そう強調する。2020年5月の写真は不鮮明なので独自に動画を解析した。5月6日午前2時に撮影された画像では、シッポの付け根が太くてカワウソらしい特徴が見て取れる。
「近くの岩のクラックの長さとの比較で、体長は87~107cmほどだとわかった。イタチとは明らかに大きさが違う。混同されやすい動物としてハクビシンがあげられる」
さらに土井さんは、定量的な比較を試みた。
「複数の動物写真から比率を求めました。全長に対する尻尾の割合は、高知付近を生息地としていたニホンカワウソと同類のユーラシアカワウソが平均33.9%。写真の動物の比率は35.1%で、これに近い。ところがハクビシンの場合は42~44%とまったく違う。
また、尻尾部分の傾斜角(テーパー)は、同じく、ユーラシアカワウソが1/6.05~1/9.06で、この動物は1/9.05。ハクビシンは1/19.5~1/25.4。四股の左足内側、顎から四股内側にかけて写真で白く映っている部分の個所は、カワウソには当てはまってもハクビシンには当てはまらない」
ということで、ハクビシンである可能性はなさそうだ。
小川近くの岩の上に散乱していたカニの食痕
「また、歩く時の腰の盛り上がりはカワウソの特徴。見た目の体形、数値的な体形ともにカワウソに限りなく近い。何人かの研究者にも見せたが『カワウソではない』という研究者は一人もいなかった」(土井さん)
それ以外にも今年8月の調査では、沢の近くの岩の上に数100匹の小カニの食痕があり、「獺祭(だっさい)=獲った獲物を並べるカワウソの習性」の状態となっていた。
「韓国のユーラシアカワウソ研究者に見てもらったところ、『カワウソの親子が餌の取り方を教えた食痕に似ている』との回答があった。大きさの違うカワウソを別々に見たこともあり、生息しているだけでなく子孫をつないできたのでは」(土井さん)
国内ではDNA調査の結果、四国地域のカワウソはDNA上もオリジナリティがあるとされ、土井さんたちの示した証拠はニホンカワウソ生息の可能性を示唆するものだ。