続いて2例目は、2018年1月31日の参議院 予算委員会にて、高度プロフェッショナル制度のニーズの労働者へのヒアリング結果について、
浜野喜史議員が加藤厚生労働大臣(当時)に問うた場面。加藤大臣は、「これ」「その」等の指示代名詞の曖昧さを利用した
こそあど論法(法政大学教授・上西充子氏が考案)で意図的に聞き手をミスリードさせた疑いが強い。本記事では以下2点を対比させることで、そのミスリードの手法を視覚化していく。〈参照:「
【こそあど論法】加藤厚労大臣 2018年1月31日参議院予算委員会」〉
・聞き手の一般的な解釈
・加藤大臣が後日の答弁で主張した解釈
まず、浜野議員の質問は下記の通り。
浜野議員:「厚労大臣にお伺いいたします。この(裁量労働制と高度プロフェッショナル制度という)二つの制度、働く者の側からの要請があったというふうに理解してよろしいでしょうか。」
加藤厚労相:「私自身も、この働く方の立場に立って働き方改革を推進していくということで、働く方の声をいろいろと聞かせていただきました。(中略)
また、高度で専門的な職種、これはまだ制度ございませんけれども、
私もいろいろお話を聞く中で、その方は、自分はプロフェッショナルとして自分のペースで仕事をしていきたいんだと、そういった是非働き方をつくってほしいと、こういうご要望をいただきました。
例えば、
研究職の中には、1日4時間から5時間の研究を10日間やるよりは、例えば2日間集中した方が非常に効率的に物が取り組める、こういった声を把握していたところ(以下略)」
この答弁で加藤大臣は、複数の罠を仕掛けている。
「改行があるから別人のこと」!? 狡猾な罠と言い逃れ
まず、第2段落で出てきた「
私もいろいろお話を聞く中で」という表現。こう言われたら、聞き手は「加藤大臣は複
数の人から話を聞いた」と解釈するだろう。だが、加藤大臣は、この答弁をする際に「何人かから」と言いかけたのを止めて、「いろいろな話を」と言い直している。つまり、
「何人か」とは発言せずに、あたかも複数人から話を聞いたと錯覚させる意図があったと推測できる。
また、
ヒアリングの場所についても、聞き手は「
国会で具体的な例を挙げて説明しているのだから当然、加藤大臣は正式なヒアリングの場を設けて話を聞いた」と解釈するだろう。だが、加藤大臣は後日(2018/6/12)に参議院 厚生労働委員会で立憲民主党・石橋通宏議員に対して、「
たまたま会合で会った、高プロの対象となる方に話を聞いた」という趣旨の答弁をしている。
改めて、聞き手の解釈と加藤大臣の主張を対比させると以下のようになる。
聞き手の解釈:加藤大臣は
複数の人に
正式なヒアリングでしっかりと話を聞いた
加藤大臣の主張:
たまたま会合で会った時に
何人か話を聞いた
さらに、第2段落 の「
その方」 と第3段落 「
研究職」 の関係性についても着目したい。「その方は」という話の続きで、例えばと「研究職」を挙げているので、聞き手は当然、「
その方=研究職」と解釈するだろう。だが、加藤大臣は後日(2018/6/14)の参議院・厚生労働委員会にて、福島みずほ議員からの「
1月31日の答弁で『その方』は『研究職』だと聞き手は思うだろう。虚偽答弁ではないか」との指摘に対し、「
議事録で改行が入っているから、『その方』と『研究職』は別の話」という驚くべき答弁を行った。
確かに1月31日の答弁の議事録では「その方」と「研究職」の間に改行がある。だが、音声を聞くと
改行箇所の間(ま)は約0.2秒。息継ぎすらしていない。大半の聞き手は繋がった話と捉え、「その方 = 研究職」と解釈するだろう。
さらに、「『その方』とは誰なのか。コンサルなのか」との福島議員からの質問に対し、加藤大臣はこのように答弁している。
「『その方』はITの関係でコンサル。ま、コンサルというかですね。システムエンジニアリングと、それから実際の、ユーザーというんでしょうかね、その間でいろいろプロジェクトをつくっていく、そういう立場の方でありました」
つまり、加藤大臣は
「その方 ≠ 研究職」、「その方 = ITコンサル(のような人)」と明確に認めたのである。
改めて、聞き手の解釈と加藤大臣の主張を対比させると以下のようになる。
聞き手の解釈:
その方 = 研究職
加藤大臣の主張:
その方 ≠ 研究職(議事録で「その方」と「研究職」の間に
改行が入っているから別の話)
以上、信号無視話法とこそあど論法を視覚化した2つの事例を通して、官房長官に就任した加藤勝信氏の答弁を振り返ってきた。
1例目では「検査要件」と「受診目安」という言葉をすり替えて、「発熱4日以上は検査要件ではなく、保健所や国民が誤解した」と責任を転嫁。2例目では繋がった話のように喋っておきながら「議事録で改行が入っているから別の話」という驚愕の答弁。
政府広報官である官房長官に就いた加藤氏がこのように不誠実で狡猾な人物であることに我々は注意し続けなければならないだろう。
<文・図版作成/犬飼淳>