8月の自殺者が前年比で急増。コロナ禍の中だからこそ知っておきたい「自殺のサイン」

 俳優の芦名星さんの自殺報道があった。報道によると、遺書がないため自殺の原因についてはよくわかっていないが、さまざまなメディアで憶測が立てられていくだろう。三浦春馬さんの自殺報道が記憶に新しいなか、芸能人の自殺のニュースが続いている。

8月の自殺者数が前年比で増加

落ち込んでいるイメージ画像

photo via Pexels

 もし、自分自身の周りに自殺のサインを出している人がいたとして、私たちはそれに気づくことができるのだろうか。そもそも、自殺のサインについて正しく理解できているのだろうか。  実は、8月の自殺者数が去年に比べて増えている。8月の自殺者数は1849人となり、前年同月比で246人増加している。コロナによって、今後の生活に不安を抱えたことが原因かと考えられるが、なんと1日に約60人が自殺している計算になる。個人的には、この数字はかなり多いと感じる。愛知県は自殺者の急増に伴い、緊急の会見を行なって、不安を抱え込まないでほしいと呼びかけた。  「こころの健康相談統一ダイアル」(0570-064-556)というものが設置されており、そこへ気軽に相談することができるが、電話してみたところ電話が混み合っていて、相談窓口までたどり着くことができなかった。他にも区別のものや施設などが実施している相談窓口があるので、そちらのほうが通じやすいのかもしれない。  もちろん、そのような窓口に相談することは重要だが、同時に周りの人が「自殺のサインに気づけるか」というのも重要である。1番身近な人が、自殺のサインに気づき、相談に乗ってあげて、悩みを1人で抱え込む孤独感から解放してあげることが、自殺を思いとどまらせるのに効果的な方法のひとつだ。  自殺を考えている人は、「相談をすると迷惑かもしれない」「弱い自分を否定される(受け入れてもらない)かもしれない」「相手を重たい気分にさせるかもしれない」といった不安を抱えているため、自分から相談ができない。そのため、その人が無意識に/意識的に発している自殺のサインに気づいてあげる必要があるのだ。  ただ、多くの人は、自殺のサインについて無知であり、無頓着である。自殺のサインに気づいていたとしても、「誰にでも、そういうときはあるよね」と、鈍感になってしまう。これは、「正常性バイアス」と呼ばれ、異常な事態でも、それが正常範囲内だと軽く捉えてしまうのだ。

周囲が気づくことのできる危険因子

 そういった理由で自殺のサインを見逃してしまわないよう、今回は自殺予防の権威である精神科医・高橋祥友医師が著書で提示した自殺の危険因子についての概要をご紹介する。 ・自殺未遂  自殺を図って命を救われたとしても、適切なケアがなかった場合10人に1人は自分を傷つけて、自殺にいたってしまう。自殺の危険を予測するうえで最も重要な因子だと高橋氏が提示している。死にいたらない軽度な自傷行為を行う人でも、「本気じゃないからだ」と軽視してはいけない。将来的に自殺をしてしまう可能性が高いということがわかっている。 ・精神疾患  自殺をする多くの人は心の病を抱えており、適切な治療をしていない場合が多い。心の病を抱えている場合は、必ず専門の病院へ行くことが、自殺予防に大きな効果がある。 ・サポート不足  学校家庭職場などで、支えてくれる人がおらず孤独を感じていると自殺の危険が高まる。最近の芸能人の自殺のニュースを見ると、周りに弱さや悩みを打ち明けられないことによるものが大きいように感じる。 ・喪失体験  その人にとって大切なものを失う体験のことを指す。それは大切な人というだけでなく、自分の地位や、名誉、富、将来など、仮に他の人にとって些細なことだったとしても、その人にとって大切にしているものを失うことは自殺の危険因子だと考えられている。 ・事故傾性  事故に繋がる行動をする命の危険がある状態に身をさらすなどの行為は自殺の代理行動だと考えられており、精神科での診察が必要である。飲酒・危険運転や、アルコールの暴飲多額の借金医師の指示を聞かないなどの行為がこれに該当する。  これらの因子ひとつでも当てはまれば自殺の危険があるのではなく、複数が組み合わさることで自殺の可能性が高まるので、総合的に判断していただきたい。
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コロナショック下でより目にしづらくなるサイン
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