菅政権の特徴は、菅首相・総裁と二階俊博幹事長の連立という点にあります。官僚を抑える菅首相と自民党を抑える二階幹事長がタッグを組み、政権運営していく構造です。この政権構造については、拙稿
「「菅・二階」体制が成立したらどうなるか?国民に求められることとは?」で解説しましたので、ご覧ください。
菅・二階連立政権の最大目標は、政権の維持にあります。安倍前首相の改憲のように、独自の目標はありません。国会の多数派を自民党で占め続け、半永久的に自民党政権を続けることが目標です。
その観点からすれば、デジタル大臣も万博大臣も有効な大臣ポストになります。IT大臣をデジタル大臣とするだけで、政権の新味を示すことに成功しつつありますし、万博大臣を名目に大臣ポストを増員することで、党内の不満を減らすことにも成功しつつあります。
組閣においても、政権の維持という目標が徹底されています。再任や横滑りの大臣が多く、安倍政権の居抜きのようにも見えますが、政権の維持という視点からすれば、よく考えられた組閣なのです。
第一に、再任や横滑りの大臣が多く、それだけ不祥事の発覚リスクを抑える意図が見えます。安倍政権では、2019年の参院選後の内閣改造で、
菅原一秀経産大臣や
河井克行法務大臣、
秋元司内閣府副大臣などの不祥事が発覚し、政権を揺るがしました。再任や横滑りの大臣は、不祥事を隠していた場合、既に報じられている可能性が高く、それが報じられていないことから、不祥事リスクの低い大臣となります。
第二に、派閥均衡の大臣配分から、派閥の不満を抑える意図が見えます。菅首相以外の20人の大臣を派閥別に見ると、細田派5人、麻生派3人、竹下派2人、二階派2人、岸田派2人、石破派1人、石原派1人、無派閥3人、公明党1人です。こうした大臣の配分は、派閥の所属人数に比例しています。なお、無派閥のうち2人(梶山経産大臣と小此木八郎国家公安委員長)は菅首相との個人的な結びつきが強く、実質的には菅派と称してもいいでしょう。
第三に、河野太郎議員が当初の総務大臣への内定報道にもかかわらず、行政改革大臣になったことから、官僚の不満を抑える意図が見えます。名称と裏腹に、
行革大臣は行政改革の実質的な権限を持たない一方、総務大臣が実質的な権限を持っています。とりわけ、総務大臣は行政の質を改善するための強力な権限を有しています。そのため、行政の質的な改革をライフワークとする河野議員が総務大臣になれば、行政の透明化などを独自に進めてしまう可能性があります。一方、行革大臣であれば、首相のコントロール下に置けるため、
菅首相の認めた範囲内での改革しかできません。
特命大臣の役割は、首相のやる気と能力に大きく左右されます。ここでいう特命大臣とは、国務大臣として特別な担当をする大臣と、内閣府での特別な担当をもつ大臣のことを指します。こうした特命大臣は、他の大臣を動かして任務を遂行するため、首相の強いバックアップがあれば、各省の大臣よりも強い権限を発揮でき、それを得られなければお飾りになります。
菅政権が政権維持を最大目標とすることは、
その力が有権者によって左右されることを意味します。有権者の支持が得られなければ、政策を安易に変更するでしょうし、閣僚を交代させるでしょう。何より、
選挙での敗北や支持率の低下が、菅首相と二階幹事長の信頼関係を壊すでしょう。政権維持のためならば、お互いを引きずり下ろすような骨肉の内紛すら起こすでしょう。
要するに、
有権者が菅政権を厳しく監視し、言論や選挙で意思をハッキリ示すことが、とても大切です。安倍政権以上に、有権者の意思が効果を持つはずです。菅政権の発足をきっかけに、さらに
一人でも多くの人が、投票はもちろんのこと、SNSなどでも大いに発信していくことを期待します。
<文/田中信一郎>