9月に入り、
銀座インズや有楽町の交通会館など、名のある商業施設の苦境も耳に入るようになってきた。その一方で、一足早く客足を回復しつつあるのが、
都心から離れたハブ駅にある繁華街や私鉄沿線のベッドタウンだと大西氏は語る。
「9月も営業時間短縮要請が継続していた23区内にありながら、
北千住の飲み屋街は10時以降も酔客を多く見かけました。実感値では、マスクをつけていない人も増えています。また、週末の
二子玉川も人出がすごい。今年の夏はどこにも行けなかったけれど、比較的罪悪感が薄い地元で家族サービスをと考える人が多かったからでしょう。6月に国土交通省が支援策として、飲食店などの路上利用の規制を緩和すると発表しましたが、中央線沿線やニュー新橋ビルの裏手などは、外にテーブルを出して飲んでいる人もかなりいます。もともと海外に比べて日本は規制が厳しかったので、こういう動きはどんどん進めばいいと思います」
さまざまな対策を積み上げ、難局を乗り越えようとしている個人店もある。
蒲田の人気スペインバル「
Flowers & Spanish Sonrisa」の上田光嗣さんは語る。
「飲ん兵衛が多い土地柄というのもありますが、6月にはゆっくりお客さまが戻ってきて、7月には9割以上の戻り。売り上げベースでいくと席数を減らしたにもかかわらず前年比108%でした。理由は単純で、営業開始時間を早めて営業日数を増やし、メニューと食材を見直して一皿一皿のクオリティを上げたんです。しかし、8月の時短要請で売り上げは5割まで落ち込みました。10月ぐらいからまた客足が戻ってくれるんじゃないかと願いつつ、いまは辛抱するのみです」
また、地元密着型の店舗には、経営者が高齢化し、無理をしてコロナ禍のなか営業を続けるならいっそ、と店じまいをした店舗もある。そうかと思えば、山手線内側の家賃相場が下がり、安値で好立地の物件を押さえる気鋭の若手シェフもいると大西氏。これを機に、東京の飲食業界で一気に世代交代が進むかもしれない。
スマホのアプリから取得した位置情報ビッグデータを解析し、流動人口データを提供している
Agoopによると、コロナ禍で「
都心部では著しい人口の減少が発生し、郊外では分散する形で人口の増加が確認できた」という。
データ提供/Agoop
では、時短要請が延長となった23区内と外で差はあったのだろうか?杉並区の西端に位置する西荻窪の人気居酒屋の店主は語る。
「小池さんが営業自粛解除の対象から23区を除外した日の夜、某局が取材にきて、『吉祥寺が外れたのをどう思うか?』と聞くので、『
アンタらが大騒ぎするから店に客がきにくくなるし、自粛警察が暴れるんだよ!』と言ってやりました。8月の半ばくらいから9割以上お客さんが戻ってきているので、もう余計なことは言ってほしくないのが本音です。実はコロナ以降、客層が変わりつつあるんです。ここらはどこのお店も地元在住の常連がついていて、客の入れ替わりは激しくないのですが、ここにきて、新規のお客さんがかなり増えました。これまで都心で飲んでいた人が、1軒目から地元で飲むようになったからでしょう」
リモートワークが定着しそうな今、中央の空洞化はさらに進む?
【大西健俊氏】
1977年、神奈川県出身。月刊誌の編集を経て、食や旅をテーマに編集者として活動。現在、『
食楽』編集長、地方創生メディア『
ONESTORY』副編集長等を務める。
<取材・文・撮影/山脇麻生 撮影/細川葉子>
※週刊SPA!9月15日発売号より