photo by EPA/FRANCK ROBICHON/時事通信
安倍晋三総裁(首相)の辞任表明を受けた
自民党総裁選の構図は、菅義偉、岸田文雄、石破茂の3候補の争いで固まりました。官房長官の菅氏、政務調査会長の岸田氏、元幹事長の石破氏と、いずれも政府・自民党の要職を歴任した有力候補です。9月14日投開票の総裁選で選ばれた新総裁は、16日の臨時国会で首相に指名されます。
なかでも、
最有力候補が菅氏です。立候補表明した3日の時点で、二階派(47議員)、細田派(98議員)、麻生派(54議員)、竹下派(54議員)の
支持を固めたと報じられています。総裁選では国会議員394票と都道府県連代表141票の合計535票で決まりますので、菅氏は既に過半数近い253票を固めたことになります。
派閥連合に支えられるように見える菅氏ですが、
二階俊博幹事長の強い推しであることは、周知の事実です。例えば、菅氏と二階幹事長が気脈を通じて立候補したと、
毎日新聞は報じています。
朝日新聞も同様の報道をしています。
これは、菅氏が総裁となった場合、
菅・二階連立政権となることを意味します。同じ自民党に属する政治家同士で連立政権というのは、本来の用語からすれば間違った表現ですが、自民党の派閥があたかも政党のようにふるまい、政権ごとに与党内の力学を変化させることを踏まえた比喩です。
安倍政権では、
安倍首相が党内で抜きんでた影響力を有した実質的な単独政権でした。自民党内の権力が派閥を超えて安倍首相に集中し、支える構造になっていたからです。安倍政権前期では一定の影響力を有した石破氏も、幹事長、地方創生担当大臣というポストを外されると、急速に力を失ってしまいました。かつての自民党の派閥領袖は、反主流派の無役でも、党内で一定の影響力を持ちえましたが、現在の自民党ではそうなりません。
こうした前政権に対し、
菅政権では、菅氏と二階氏に権力が大きく二分化されると考えられるので、菅・二階連立政権と表現しました。菅候補は派閥に属しませんが、総裁・首相というポストの力を手に入れます。他方、二階氏は中規模の派閥を率いますが、幹事長というポストを縦横に活用して力を増幅している面があります。
どちらも同等の影響力で並ぶため、権力構造的に見れば両者の連立政権となるわけです。
菅・二階連立政権の特徴は、政府与党での強い影響力、すなわち権力の維持・拡大を目的とすることです。いずれも政治家として自らの理想を実現することに執念を燃やすタイプでなく、そうした政治家を番頭として支えてきたタイプです。例えば、菅氏は安倍首相を支え、二階氏は小沢一郎氏を支えていました。そのなかで頭角を現し、現在に至っています。
この政権の性格という点で、憲法改正を第一の目的としていた
安倍政権から大きく変化します。安倍氏は、祖父・岸信介元首相の果たせなかった憲法改正という夢を追い、そのために全力を投じてきました。それでも改憲できなかったことの意味については、拙稿「
安倍政権の「3大成果」と、そのレガシーをどう活かしていくべきか?」をご覧ください。
権力維持を目的とする政権の特徴は、目の前の課題に機敏に対応する一方、一部の支持者への利益誘導が横行することです。観念的なこだわりに乏しく、現実主義的であるため、それぞれの課題には臨機応変に対処します。原則や前言を曲げることも平気です。一方、権力構造を維持するための動きが盛んになるため、党内抗争は激しくなり、犯罪になるケースも出てくるでしょう。実際、選挙での買収事件に問われている河井克行元法務大臣は、菅氏の側近でした。
菅氏が
「安倍路線の継承」を訴えることも、権力維持を目的とする見方を裏づけます。総裁選への立候補会見について「
安倍政権の立場をベースにした発言内容に「新味」はなかった」と報じられたように、菅氏は独自の理念や社会像を語るに至っていません。これは、菅氏が官房長官として安倍政権を支えてきたこととの整合性だけでなく、理念などにそれほどの関心がないこともあると考えられます。同様に外務大臣、政調会長として支え続け、安倍首相からの禅譲を強く期待していた
岸田氏が独自の理念などを打ち出したのとは、極めて対照的です。
要するに、
菅・二階連立政権の成立により、自民党は安倍政権で確立した国家重視の政策を継承しつつ、かつての派閥政治が復活すると考えられます。かつての自民党は、タテマエとしての個人重視の憲法と、ホンネとしての国家重視の政策方針を併存させる路線でした。それの背景には、権力維持を求めるが故に、現状維持を指向する自民党内の派閥抗争がありました。安倍政権は、それをタテマエ・ホンネともに国家重視へと、自民党の路線を変更しました。ですから、菅・二階政権では、派閥抗争が激しくなりつつ、安倍路線を維持することになるのです。