自民党内に強固な支持基盤を持たない菅氏が、
独自の支持基盤として頼りにするのは、官僚機構と考えられます。官僚機構と自民党の関係は、企画・実施サイドと承認サイドの関係になります。安倍氏は両サイドを抑えていましたが、菅・二階政権では、菅氏が前者を抑え、二階氏が後者を抑えています。そのため、菅氏としては官僚機構を頼りにするわけです。
その
菅氏が強く打ち出す独自性は、縦割り行政の打破です。
毎日新聞によると、「役所の縦割りをぶち壊す」と「応答要領には目もくれず、菅氏は自分の言葉で持論を展開した」とのこと。一般論としては当たり前のことですが、これまで8年近く、官房長官として官僚機構を厳しく統制してきた菅氏が語れば、別の意味を持ちえます。
その意味を考えると、
縦割り行政の打破とは官僚機構への服従の要求と考えられます。なぜならば、縦割り行政の打破は極めて否定しにくい概念であり、自らの要求への抵抗を「縦割りの弊害」と見なせば、それを排除する大義名分になるからです。
実際、
ふるさと納税をめぐる問題で、菅氏は異論を述べる官僚を更迭したと報じられています。大阪府泉佐野市などをふるさと納税の対象外とする規定をめぐり、2020年6月30日の最高裁判所判決で国が敗訴しました。ふるさと納税は、菅氏が総務大臣のときに肝いりで創設した制度です。それに関連して、
毎日新聞は次のように報じています。
”
泉佐野市をはじめとした4市町の制度からの除外は官邸主導で進められた。政府内では当初、「こういう自治体があってもいいのではないか」と容認する声もあったが、「菅氏が『そんなのはダメだ』との意向を示してからは誰も何も言わなくなった」(官邸幹部)という。15年の制度拡充の際に自治税務局長として持論を唱えた平嶋氏が、自治大学校長に「更迭」された経緯も沈黙を助長した。”〈
毎日新聞〉
つまり、菅・二階政権では、
安倍政権よりもさらに官僚機構の統制が強化されることになります。安倍政権は、首相や官房長官などの意に沿う官僚と沿わない官僚の選別を厳しく行っていたと知られています。その実務を取り仕切っていた菅氏が首相となり、官僚機構を主たる支持基盤とすることで、その選別がますます強化されると考えられるのです。
そのことは、
統制される官僚側の「忖度」もより高度化することを意味します。一切の証拠を残さずに、首相や大臣、与党の強引な要求に従うことを求められ、それに長けた官僚が出世すると考えられるからです。阿吽の呼吸で首相の意向を察知し、
阿吽の呼吸で動き、実現することが、阿吽の呼吸で求められるわけです。それができなければ、縦割りの張本人として、粛清されるでしょう。
もちろん、
政権が公正かつ透明な行政運営を心がけ、あらゆる思惑と利益誘導を排すれば、人々にマイナスとなるような大きな問題は起きません。高級官僚からすれば、強いストレスにさらされる毎日となりますが、うまくやれば御褒美もそれだけ大きいものです。
しかし、政権が
権力の維持・拡大を目的とし、政府与党内で思惑と利益誘導が横行すれば、ふつうの人々に大きなマイナスとなります。政権に連なる一部の人々だけが、税金・権限を私物化することになるからです。
第二、第三の森友学園問題、加計学園問題、自衛隊日報問題、統計不正問題、桜を見る会問題、カジノ問題、黒川検事長問題、カニメロン問題、河井夫妻問題など起きるでしょう。
菅・二階連立政権をまっとうにするには、国会によるさらに強力な監視が不可欠です。権力維持を至上目的とする政権の言動や宣伝に対し、右往左往しないリテラシーが、ますます有権者に求められています。
<文/田中信一郎>