安倍首相の第一のレガシーは、憲法改正を主たる課題と主張する政治家を、空想的で非現実的な政治家としたことです。安倍首相の力と熱意をもってしても、憲法改正の入口にすら立てなかったからです。今後、少なくとも憲法の基本原則を変更しようとする改正は、非現実的な政治課題となります。安倍首相ですら実現できなかった改正を、より劣悪な状況の首相が実現できると考えるのは、あまりに空想的です。
安倍首相の第二のレガシーは、従来のものと根底から代わる、新たな経済思想と政策の議論を重要な政治課題としたことです。安倍首相の在任期間と動員した政策をもってしても、経済成長を実現できず、人々を貧しくする結果となったからです。今後、安倍首相よりも上手に好景気と経済成長を実現できると主張する政治家は、口だけで終わるか、安倍首相よりも人々を貧しくするか、どちらかの結果となるでしょう。
安倍首相の第三のレガシーは、政治・行政システムの透明性・公正性を重視する人々が多いことを顕在化したことです。「#検察庁法改正案に抗議します」での世論は、一見すると専門的な問題であっても、多くの人々がそれを理解し、意見を示せるとの実例です。他にも、高度プロフェッショナル制度や裁量労働制の問題においても、専門的な内容であるにもかかわらず、多くの人々が自らの意見を示しました。今後、
重大であっても複雑な問題を回避し、選挙の争点を単純化しようとする政治家は、有権者を馬鹿にしていることを意味し、重大な課題である政治・行政システムの欠陥から目を逸らす存在となります。
このように、
安倍首相は歴史的な成果をあげ、有権者に重大なレガシーを残しました。偉大な成果とレガシーを残した安倍首相に、心から「お疲れさま」と申し上げます。
そして、
安倍首相の成果とレガシーを活かせるか、それは有権者にかかっています。安倍首相の憲政史上最長の在職日数という偉業を無にすることがないよう、
有権者には政治に関する議論を活発にしていくことが求められます。
<文/田中信一郎>