安倍首相の第二の成果は、目標とする経済成長を一度も実現できなかったことです。安倍首相は、自身の
経済政策「アベノミクス」で国内総生産(GDP)成長率3%を目標に掲げていました。ですが、8年近くの在職日数にもかかわらず、
一度も目標を達成できませんでした。
アベノミクスは、従来のあらゆる経済政策を同時かつ大規模に行う点で画期的でした。マネタリズムに基づく異次元金融緩和、ニューケインジアンに基づく財政規模の拡張、サプライサイド経済学に基づく強引な規制緩和が、アベノミクスの「三本の矢」でした。従来の経済政策を総動員したのです。
アベノミクスの効果は、景気と株価、企業収益で顕著に表れました。政府の公式見解によると、2012年12月から2018年10月の71か月間にわたり、景気拡大が続きました。リーマンショックから低迷していた日経平均株価は2万円台を回復し、急激な円安をもたらし、企業収益は過去最高を記録しました。
それでも、
アベノミクスは自らの目標を達成できませんでした。この原因について、岩田規久男・元日本銀行副総裁や藤井聡・元内閣官房参与ら、アベノミクスを主導した一部の専門家は、消費増税と財政出動の不足を主因と見なし、消費減税と大規模な財政出動を主張しています。
それどころか、
人々の生活は苦しくなる一方でした。2012年を100とする指数で2018年の状況を見ると、
消費者物価指数が106.60に上昇した一方、
実質賃金指数は96.44に低下し、
実質世帯消費動向指数は90.72まで低下していました。これは、物価の上昇に賃金が追いつかず、人々のモノを買う力(購買力)が落ちてしまった(相対的に貧しくなった)ことを意味します。実際、世帯単位での消費は1割減ってしまったわけです。詳しくは、拙著『
政権交代が必要なのは、総理が嫌いだからじゃない』(現代書館)をご覧ください。
要するに、
アベノミクスは人々から大企業・富裕層に富を移す政策だったのです。このことは、経済学者の野口悠紀雄が統計分析からも明らかにしています。詳しくは『
野口悠紀雄の経済データ分析講座―企業の利益が増えても、なぜ賃金は上がらないのか?』(ダイヤモンド社)で解説されています。
アベノミクスの結果は、
景気対策を重視する従来の経済政策が行き詰まっていることを意味します。なぜならば、バブル崩壊以後に実施されてきた景気対策・経済政策を同時かつ大規模に実施しても、経済成長も、人々の生活向上できなかったからです。実現できたのは、株価上昇と企業収益を高めることだけでしたが、それは人々を貧しくすることと引き換えでした。
第三の成果は政治・行政システムの欠陥を明らかにしたこと
安倍首相の第三の成果は、これまでの政治改革・行政改革で変貌した政治・行政システムの欠陥を明らかにしたことです。森友学園の問題における国有財産の売却や公文書などの扱い、加計学園の問題における特権的な事業者の選定や記録の有無、自衛隊の海外派遣をめぐる情報公開の問題、裁量労働制の拡大をめぐる国会答弁の問題、桜を見る会の問題における行政と政治活動の仕切りなど、安倍政権では政治・行政システムの様々な欠陥が明らかになりました。
その欠陥とは、
首相や大臣などの政府高官の意思によって、いかようにも行政の公正性・透明性を歪められる点です。法令やシステムを企画する段階では、おそらく想定されていなかったような欠陥です。
その欠陥は、
議院内閣制も掘り崩しつつありました。議院内閣制における最後の抑止力は、与党にあります。政治・行政を歪める首相や閣僚、政府高官がいても、与党議員が不信任を突きつければ、その内閣は存続できないからです。けれども、何があっても安倍首相を支持する与党議員が多数を占めていたため、
与党の抑止力は機能しませんでした。
つまり、
安倍首相は不透明・不公正な政治・行政によって長期政権を維持できると実証し、政治・行政システムの欠陥是正が急務であることを明らかにしたのです。人々のための政治を実現しようとする政権は、どのような政策を実施するよりも前に、政治・行政システムの欠陥を是正しなければなりません。そうでなければ、
動機と手法が正しくても、手抜き・中抜き・骨抜きが横行し、成果が出ないからです。それは、
コロナ対策の給付金の中抜き問題からも明らかになっています。