映画『ゆきゆきて、神軍』が、財務省を追及する赤木雅子さんに力を与える
『ゆきゆきて、神軍』の画面。2時間2分の作品が終わると、一言つぶやいた。
「観てよかった」
赤木雅子さんの夫・赤木俊夫さんは、財務省近畿財務局で森友学園との国有地取り引きを巡る公文書の改ざんを命じられた。反対したが押し切られ、それを苦に心を病んで自宅で命を絶った。
それから2年。雅子さんは、改ざんを巡り夫が書き遺した「手記」を週刊文春で公表し、真相解明をめざして国などを提訴。すると近畿財務局内部からと思われる告発文書が届き、当時の上司たちがみな異例の出世を遂げていたことを知った。
その筆頭にあげられていた、元近畿財務局管財部長の楠敏志氏を天下り先の神戸信用金庫に訪ねた時のことだ。
「本当のことが知りたい。夫が死んだんです」
食い下がる雅子さんに、楠氏は「僕は何も言いませんから、過去のことは」と言い放った。
すると雅子さんは「過去のことと言いましたね。夫は過去のことですか? 亡くなって終わりですか? 私の中ではまったく終わっていない!」と見事な反撃を見せた。この様子を見て、私は雅子さんに伝えた。
「『ゆきゆきて、神軍』という映画みたいですね」
『ゆきゆきて、神軍』は、1987年(昭和62年)に公開されたドキュメンタリー映画の名作だ。旧陸軍兵士としてニューギニアに派遣された主人公の奥崎謙三氏が、同じ部隊で終戦を迎えた後に兵士が射殺された謎の事件の真相を追及し、部隊の上官らを訪ね歩く。自らを「神軍平等兵」と名乗って。
その過程で、時には相手にしゃべらせようと暴力も振るう。だが真実を追及しようとするその姿勢にはブレがない。そんなところが雅子さんの姿と重なった。
公文書改ざんを巡る真実を明らかにし、財務省や近畿財務局の責任を問う裁判は7月15日に始まった。マスコミ各社が大きく報道し、世の人々の関心も高まった。雅子さんも各社の取材に積極的に応えてきた。だが世の中にはいろんな人がいて、いろんな思惑のもとで動いている。
実はこのところ、雅子さんをがっかりさせる出来事が相次いでいた。中でも8月22日にあったある出来事が雅子さんにとって信頼を裏切るもので、大きなダメージを与えた。
その夜、雅子さんから「休暇届出そうと思って」というLINEが届いた。裁判のことから離れたい。私ともしばらく連絡を取りたくないような感じだった。裁判の予定も当分ないことだし、ゆっくり休むのもいいのではないかと思い、しばらく連絡を自粛することにした。
その日の深夜、偶然が助け舟を出してくれた。知人からこんなメッセージが届いたのだ。
「ゆきゆきて、神軍。七藝で上映してますね。今日、明日と監督挨拶があったみたいです」
大阪の映画好きには言うまでもないが、七藝(ナナゲイ)とは大阪市北部の十三(じゅうそう)にある第七藝術劇場のこと。映画を“第七の芸術”ととらえるところから、その名がついた映画館だ。そこで『ゆきゆきて、神軍』を上映しているという。しかも原一男監督の舞台あいさつ付きで。
赤木雅子さんはじっとスクリーンを見つめていた。身じろぎ一つせず、目をまっすぐ前に向けて。目線の先には映画
『ゆきゆきて、神軍』の奥崎謙三氏の姿と雅子さんが重なった
偶然にも『ゆきゆきて、神軍』の上映と監督の舞台挨拶が
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