「非自民・非共産」路線という”自滅の道”<著述家・菅野完氏>

「非自民・非共産」という愚

 しかし不思議なことに、「自分はリアリストである」と標榜する輩ほど、なぜかこの「改憲標榜野党」を志向したがる。そして、この種の「自称・リアリスト」ほど、「自民党を否定し、共産党を否定することが、無党派を獲得する近道だ」と信じて疑わない。所謂、「非自民・非共産」路線という代物だ。だがこの路線も、常に失敗の憂き目にあってきた。  なるほど、「汚職にまみれ傲慢な姿勢のある自民党も、イデオロギーの強い共産党も、両極端として〝普通の有権者”から嫌われている」という分析は成り立つのだろう。無党派有権者層を「党派性を嫌い、なにごとにも極端を忌避し、クリーンな政治を志向する、ゆるふわ有権者」と規定するならば、その分析は分析として正しいとはいえる。しかしながら、この分析を元に、「だから、非自民・非共産だ」という選択肢には、一切のリアリズムもなければ、論理的整合性もない。  まずこの着想は、「自民党を否定するのは野党もしくは第三極に限定される」という思い込みに囚われてしまっている。無党派有権者が嫌う「自民党のダメな部分」を否定するのは「非自民」に限ったことではないという当たり前の話を忘れているのだ。むしろ、小泉内閣などを思い出せばわかるように、無党派をも巻き込んで有権者を一番熱狂させるのは、「自民党のダメな部分」否定する「自民党」なのだ。  有権者はバカではない。「非自民が自民党を否定する」よりも「自民党みずからが自民党を否定する」方が工数も少なく納期も短いことをちゃんと理解している。だからこそ「自民党を否定する自民党」にこそ無党派有権者の熱狂が集まる。よしんば「無党派有権者の期待に答え、その期待通りに、自民党のダメな部分をスマートに否定できるかっこいい野党勢力」なるものが誕生したとしても、その傍に、20年前の小泉首相のような「自民党を否定する新しくてかっこいい自民党」が立てば、戦略的差異は一挙に崩れ去ってしまうではないか。「保守っぽいが、自民党ではなく、自民党のダメな部分を否定するスマートな保守」は、「スマートなあたらしい自民党の顔」が生まれれば瞬時に埋没してしまう宿命にあるのだ。

「非共産」こそが有権者の望みという「幻想」

 一方の「非共産」路線も、同じような宿命を抱えている。  確かに日本には、抜き難い反共思想が存在している。日本は時代遅れの冷戦構造がいまだに国内政治を規定してしまっているため、ロシア革命直後に考案された古臭い反共プロパガンダがいまだに根づいているのも事実だ。また、30年近く続く不況の結果、生活苦に喘ぐ人が増え、苦しい生活に喘ぐ人にありがちな「強者への精神的共依存」傾向が強くなり、共産党のように現状を批判することそのものを忌避する層が増えた側面もあろう。それに加え、広い意味での(つまり自民党より左という意味での)「左翼」界隈における日本共産党のセクショナリズムが左側陣営の中でも忌避感を生んでいることも十分に理解できる。「どこをどうみても、共産党は忌避されているではないか」との定性的な分析は、説得力を有している。  しかし、こうした定性的な分析ではなく、定量的に平成30年の国政選挙の歴史を分析してみると、定性的には明らかに存在しているはずの「共産党への忌避感」が、定量的な指標である「得票数」「獲得議席数」としては、一切現出していないと結論づけざるを得ないのだ。  小選挙区比例代表並立制が生まれてから、自民党が下野する政権交代は一度だけ発生している。政権交代とまではいかなくとも、与野党伯仲の選挙結果になった選挙は複数回ある。こうした選挙に共通するのは、「共産党が候補者調整した選挙」という点だ。むしろ、「共産党が候補者調整をしてくれない選挙では、当の共産党を含め、非自民の全ての政党の議席が伸び悩む」「共産党が候補者調整をしてくれた選挙では、非自民の全ての政党の議席が伸びる」と表現した方が、より実態に近い。  にもかかわらず、「共産党との協力を否定してみせてこそ、有権者は喜ぶはずだ」という、現実を直視できない、数字を読めない、お花畑な夢みがちな幼稚な策士が国政選挙間際に必ず現れ、野党の結束を乱し、結果として、自他ともに、業火に焼かれて死んでいく…という愚かな失敗を、野党勢力は30年にわたって繰り返してきた。
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