コロナ対策を牛耳る官邸「側用人」の跋扈と失墜<毎日新聞編集委員兼論説委員・伊藤智永氏>

コロナ危機で「側用人政治」の底が割れた

―― そもそも今井氏が危機対応にまで関与するのは、官僚の限度を超えていると思います。 伊藤:問題は、今井氏が「政務担当」の秘書官でもあることです。本来、政務担当の仕事は官邸と党の間を調整して、党の動きを押さえることですが、今井氏にはそれができず、トラブルが多発してきた。  たとえば、2016年に日韓の間で慰安婦合意を結んだ際、今井氏は「広報はこっちでやるから」と言っていたそうです。外交合意に対する発言としてあまりにも軽い。結局、今井氏は自民党を押さえることができず、官邸と党の間にしこりを残す結果になった。昨年、政府与党は韓国を「ホワイト国」から除外して輸出制限を行い、日韓関係は史上最悪レベルに悪化しましたが、その遠因はここにあったとも言われています。  また、2017年に安倍総理の親書を習近平国家主席に届けるために二階氏が訪中した際、今井氏は独断で親書を書き変え、一帯一路構想に対する賛意と習近平の来日要請をつけ加えたといいます。当時の谷内正太郎・国家安全保障局長はこれに抗議しましたが、今井氏は悪びれる様子もなかったそうです。  そもそも政務担当秘書官は官僚にやらせるべき役職ではない。それでも安倍総理は今井氏を登用した。その結果、官僚が外交・安保政策にも介入して問題を起こしている。ある内閣官房幹部は今井氏のことを「側用人」と呼びましたが、安倍政権の実態は今井氏が総理の権威を笠に着て実権を振るう「側用人政治」だったのです。

あのコロナ対策の陰にもいた「側用人」たち

 その弊害はコロナ対策でも表れています。たとえば、専門家の助言も聞かず、菅官房長官、萩生田文科相、加藤厚労相の反対を押し切り、何の準備もないまま、安倍総理に全国一斉休校を進言して、社会的混乱を招いたのは今井氏です。また、持続化給付金の具体的な業務を電通に委託して混乱を招いたのは新原氏です。  もともと今井氏のイメージ戦略は新原氏を中心とする経産官僚が企画・立案していますが、経産省には実務能力がないため、政策の実務を民間委託していました。ある政府高官は頻りに「ソリューション」(問題解決)という流行りのビジネス用語を口にしていましたが、今井氏は新原氏にソリューションを求め、新原氏は電通やパソナにソリューションを求めているということです。しかし、結局は問題を解決できない。コロナ危機によって、「ソリューション官僚」や「ソリューション企業」に政策を丸投げする「側用人政治」の底が割れたのです。  その結果、今では安倍総理と今井氏の関係がギクシャクしています。最近、安倍総理に長年助言してきたある政界ご意見番が記者会見を勧めたら「秘書官が反対するんです」と言われ、今井氏に電話したら「総理は森友・加計・桜の質問をされたくないんです」と言われたそうです。お互いに「秘書官が」「総理が」と責任をなすりつけ合う。側用人政治の末路です。
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台頭する「内閣官房」組
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月刊日本2020年9月号

【特集1】中国とどう向き合うか

【特集2】コロナ危機から敵前逃亡する安倍総理

【特集3】問われる国家指導者の責任



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