難民だった少年は、路上生活を経て11歳でチェス王になった……。映画『ファヒム パリが見た奇跡』主人公のモデルを直撃<映画を通して「社会」を切り取る26>

©POLO-EDDY BRIÉRE.

©POLO-EDDY BRIÉRE.

難民だった少年がチェス王者になった奇跡が映画化

 バングラデシュからパリに逃れた政治難民の少年がチェスのチャンピオンになるまでを実話を元に描いた『ファヒム パリが見た奇跡』が、8月14日からヒューマントラストシネマ有楽町他全国の劇場で公開されています。  政変が続くバングラデシュ・ダッカ。親族が反政府組織に属していたことに加え、ファヒム(アサド・アーメッド)がチェスの大会で勝利を重ねていたことへの妬みが原因で、一家は脅迫を受けるようになっていた。身の危険を感じた父親は、わずか8歳のファヒムを連れてフランス・パリへと脱出した。  難民センターに身を寄せた父子は、フランスでも有数のチェスのトップコーチであるシルヴァン(ジェラール・ドパルデュー)と出会う。独特な指導をするシルヴァンにはじめは苦手意識を持つファヒムだったが、厳しくも愛情あふれた熱心な指導に、次第に心を開き、チェスのトーナメントを目指して信頼関係を築いていく。  一方で、難民申請を却下されたファヒムの父親は、身の置き所がなくなり姿を消してしまう……。迫りくる強制送還までのタイムリミット。その脅威から逃れる解決策はただ一つ。ファヒムがチェスのフランス王者になることだった――。  今回はこの映画の主人公のモデル、ファヒム・モハンマドさんにお話を聞きました。 ※パリ在住のファヒムさんに電話にてインタビューを実施しました。

政治的な弾圧を受けて出国

現在のファヒムさん

ファヒムさん

――チェスをやり始めたきっかけについてお聞かせください。 ファヒム:私がチェスをやり始めたのは5歳の時です。父親が元々チェスを好きでチェスクラブに通っていたのですが、自分もそこに行き始めてやるようになりました。6歳でチェスのトーナメントに出場し、チャンピオンになりました。 ――父親のヌラ・アラムさんは政治運動のために弾圧を受け、また、ファヒムさんがチェス王となり有名になったことも相俟って、自宅には脅迫状が届いていたとのことでした。政治的弾圧を逃れるため、まだ8歳だったファヒムさんはヌラさんと一緒にバングラデシュを出国しますが、そのことを当時のファヒムさんはどう思っていましたか? ファヒム:映画では異なる描かれ方をしていますが、チェスのチャンピオンになるためにパリに行くのではないということだけはわかっていました。はっきりとは理解していませんでしたが、何かしら命の危険が迫っていて祖国を出ざるを得ない事情があるということは感じていました。
©POLO-EDDY BRIÉRE.

©POLO-EDDY BRIÉRE.

 最初はインドまで密航して、その後ハンガリーを経由してパリに渡りました。まだ小さかったので、覚えていませんが、バングラデシュからパリに辿り着くまで数週間は掛かったと思います。 ――驚異的なスピードでフランス語を習得したことがわかるシーンが登場しますが、どのようにしてフランス語を勉強したのでしょうか。 ファヒム:パリに着いてから難民センターに身を寄せて滞在許可が下りるのを待っている間、難民支援団体による語学学習のサポートがあって4ヵ月で現地の小学校に入ることができました。  フランス語を早く学べたのは若かったからだと思います。フランス語を学ばないと退屈してしまう状況だったんですね。学校で友達と遊ぶためにも学ばざるを得ませんでした。難しいかもしれませんけど日本語も学んだら面白いかもしれないと思っています。
次のページ 
難民申請却下で路上生活へ
1
2
3
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会