アピノンAirを製造販売する株式会社ウォーテックに、ノンチ及びアピザスを主成分とするアピノンAirの吸入試験データについて問い合わせたところ、7月下旬に回答メールがあった。
アピノンAirの急性吸入毒性については、第三者機関である株式会社薬物安全性試験センターがマウスにおける急性吸入毒性試験(全身暴露)を行ったとあり「本披験物質に急性吸入毒性は認められなかった」との試験結果が試験番号とともに示されていた。
そこで、ウォーテックの担当者にも追加取材を行った。
アピノンシリーズは2年前から製造販売していて、すかいらーく仕様のアピノンAirの主成分は天然剤のノンチ、アピザスも多少入っていると話すメーカー担当者。すかいらーくとは代理店を通しての取引で、成分の安全性と効果はある程度伝えてあり説明文書も一部提供しているという。
ノンチとアピザスが主成分のアピノンスプレーを空間噴霧禁止としていたのは「濃度の違いから」、主成分が同様のすかいらーく仕様のアピノンAirについては「この濃度なら吸入しても大丈夫」と力説。消毒液は噴霧してはいけないがと前置きし、安定化二酸化塩素を主成分とするアピノンAirも同じ吸入毒性試験をクリアしていると強調した。
ネット検索で出てきたアピノンAirやノンチの資料及び宣伝ポスター等については、掲載しているのが直接取引している代理店ではないため詳細は判らないとのことだったが、各代理店には二次店でのネットの取り扱いについて注意するよう通告するという。
すかいらーくHD側のこれまでの発信や実施内容とは相容れない発言もあった。ウォーテックではアピノンAirが新型コロナウイルスに効果があるとは謳っておらず、すかいらーくレストランで行われている超音波ミスト噴霧による〝空間除菌〟についても「
空間を、空気を除菌なんてことは多分できない」と指摘したのだ。
「単独に浮遊することはできず唾・塵・埃などの中にいるカビなどにくっついて飛んでいるウイルスや菌を、湿度を上げることで下にテーブルの上などに落とし、そこに液(ミスト噴霧されたアピノンAir)がかかることによってある程度除菌されていくイメージ」なのだという。
〝湿度を高めた室内空間では菌やウイルスを含んだエアロゾルが空気中の水分と一緒にテーブルや椅子に落ちやすくなり、そこに超音波加湿器からミスト噴霧された薬剤アピノンAirが降り注ぎ菌やウイルスを殺菌・不活化する〟というのが、メーカーの示した〝除菌イメージ〟のシステムだ。これは理に適っているのか。
湿度を上げると菌やウイルスの落下速度や落下量も上がるとの試験データをメーカーは持っているのか、あるいは業界標準で根拠にしている文献はあるのか等、照会した。
担当者は、メーカー独自のエビデンスは取っていないとしたが、一般的な湿度とウイルスの関係としてG. J.ハーパーによる『空中浮遊微生物:4つのウイルスの生存試験』(1961年)を挙げた。これは回転するステンレスドラム内を高温高湿から低温低湿までの環境下に設定し、その中にインフルエンザなど4種類のウイルスを含む空中浮遊粒子・エアロゾルを入れ各ウイルスの生存率を調べたものだ。
疑似科学に詳しい天羽優子准教授(山形大学)は、こう指摘する。
「エアロゾル中での生存が温度と湿度に依存するという話ですね。エアロゾル中に生存しているかどうかを調べているのであって,エアロゾルと空気中の水分が一緒になってどれだけ床に落下したかという話ではないように見えます」
〝湿度が高くなるに従いエアロゾルが落ちる量とスピードが増大する〟ということを示す論拠そのものにはならないのではとの指摘だ。
それにしても、すかいらーくグループ公式サイトや各運営会社のサイトから「空間除菌機器」に関する記述が削除された経緯と理由は依然として不明なままだ。「HPの期間設定」と同グループ内の運営会社は答えているが、掲載期間は終わっても噴霧期間は終わっていないのだから不可解であるし、まだ噴霧している以上、説明責任があるのは明らかだろう。
すかいらーくホールディングスが削除の理由や経緯を開示しないまま「店舗内の快適な環境維持のために使用しております」との回答のみでは、利用客への説明責任を果たしているとは言えないのではないか。
もし仮に、利用客や従業員の〝安全と安心のために〟導入したものが、その意図とは裏腹に利用客へ不安を抱かせているとしたら本末転倒である。
<取材・文/鈴木エイト>