一方、料理人の仕事を一部代替する調理ロボットも熱い視線を浴びている。
「料理全体のプロセスの複雑さや効率を考えると、人間には敵わない。ただ、麺を茹でる、もしくは揚げ物や炒め物だけを専門に行う工程の役割分担を担う調理ロボットはすでに中国で多く導入されています。今後、ロボットによる部分的な役割の代替は加速していくでしょう」(河氏)
アメリカでも、コロナ禍をきっかけに調理ロボットを導入する動きが盛んだ。ファストフードチェーン・ホワイトキャッスルやカリバーガーなどは、調理ロボット「フリッピー」の導入を決定。ハンバーガーやチキン、フライドポテトなどの調理に活用していくとしている。将来的にはPOSシステムとも連動させ、レジで顧客が注文するとロボットがすぐに調理に取りかかる仕組みも計画中だ。
さらにお隣の韓国でも配膳ロボットや調理ロボットが導入されつつある。フライドチキンチェーン・ジェネシスBBQではコロナ後に配膳ロボットを導入。ロボット一台のリース料は月額約10万円で、アルバイトの人件費(最低月給約16万円)よりも安いとか。韓国ではほかのフライドチキン店でも、労力がかかる鶏肉調理の工程にロボットアームを導入する動きが進んでいる。
JR高輪ゲートウェイ駅で実証実験が開始された配膳ロボット
そして我が国にもロボットを活用した「飲食3.0」の波が徐々に訪れようとしている。東京・二子玉川にあるレストラン「THE GALLEY SEAFOOD & GRILL」や、福岡「定楽屋」(天神大名店)ではすでに配膳ロボットが活躍している。またJR山手線の新駅・高輪ゲートウェイ駅でも配膳・配達ロボットの実証実験が始まったばかりだ。
「品川開発プロジェクトでの実用化を見据え、問題点の検証、同技術・サービスが必要かを含め検討しています。ロボットを使った働き手不足解消や非接触サービスの提供など、新しい生活様式への対応に期待しています」(JR東日本)
前出の馬場氏は、日本と中国の飲食店の設計やスペースの違いを差し引いても、飲食ロボットに関しては1万台くらいの潜在需要があると予測している。
「日本のキャッシュレス化が急激に進んだように、飲食ロボットに関しても利便性、実用性が飲食店や顧客に認知されれば採用は増加していくはず。少子高齢化や非接触型サービスに対応するために、ロボットの活用は今後も注目されていくことは間違いない。病院や介護施設なども含め、利用方法や導入場所の可能性を探りながら、市場を拡大していきたいと考えています」(馬場氏)
これだけでは終わらない。実は「飲食3.0」にはまだ続きがある。生産、倉庫業務、配送などあらゆるタスクの自動化だ。アジアの最新テック事情に詳しいコンサルタントの川ノ上和文氏は言う。
「例えば、中国フードデリバリー大手・美団は自動運転配送車やドローンによる無人配送に向けた準備を着実に進めています。同社は昨年より『未来食物農場』プロジェクトを発表しており、AI(人工知能)やドローンを活用し最適管理された食品生産を実現するとしています。食材の生産から店への配送、そして調理配膳まですべてが自動化され繫がっていくという飲食産業の未来は、非現実的ではなくなってきています」
さらに河氏によると「日本でも、ある大手デリバリーが大手通信会社と組み、ドローンを使った食品配送を計画している」と言う。もちろん、人によるホスピタリティや職人の腕前は、飲食店の大きな価値であり続けるだろう。しかし、飲食ロボットの普及に加え、配達の無人化など産業全体の自動化が連動していけば、現在とはまったく異なった飲食産業の姿が現れる可能性もある。ポスト・コロナ時代の飲食店は、どのように変化してくのだろうか。