夜の黎明通りの様子(筆者撮影)
2019年7月4日、北朝鮮の金日成総合大学に通うオーストラリア人留学生アレック・シグリー氏が国外追放された。
朝鮮中央通信はシグリー氏が「反朝鮮謀略宣伝行為」を働いたとして6月25日にスパイ容疑で拘束、人道措置として釈放したと発表。北朝鮮の数少ない外国人留学生として、日々新たな情報発信をしていた彼を襲った急転直下の事態に、北朝鮮ウォッチャーの中では驚きが走った。
当連載では、シグリー氏が北朝鮮との出会いの経緯から、逮捕・追放という形で幕を下ろした約1年間の留学生生活を回顧する。その数奇なエピソードは、北朝鮮理解の一助となるか――?
前回に引き続き、我々在北留学生と一緒に住んでいた同宿生(寄宿舎でともに住む現地の学生)にちなんだ話をする。
ある日私は、ヨーロッパから来た類稀なる金髪碧眼の男子留学生、そして彼のルームメイトである同宿生と3人で食事をするために外出した。
その同宿生は新たに来た人物だが、政治について討論することを楽しむようであった。実際、我々はその同宿生を利用して実験をしてみたいと思っていた。
中国からの実習生達から聞いたところによると黎明通りの永生塔を行った突き当たりにおいしい焼肉店があった。
そこは小白水食堂と呼ばれ(小白水は白頭山そして金日成の秘密根拠地の近くにある湧水であり、北朝鮮の公式文化の1つのモチーフと言える)価格が安く、また北朝鮮の内貨で支払える平壌の元祖焼肉レストランだった。
中国人実習生たちは小白水食堂に1、2回行ったことがあり、我々にそこを強く推薦した。
それである日、留学生2人でその食堂に行ってみた。しかし店員は明らかに慌てていた。
店員「申し訳ありませんが、うちのレストランは外国人にサービスができません」
我々「中国の友人は何回もここに来たと言うのに、なぜ我々はダメなのですか?」
私たちは反論した。
店員「横にあるレストランに行くのはどうでしょうか?」
店員は申し訳なさそうに、ぎこちない表情で説明もなく代案を提案してきた。
我々「中国人の友人たちが、ここがとてもおいしいと言ったのに……ええ、分りました。ごきげんよう」
我々は緑色と白の2つの色で塗られた黎明通りに再び出た。
友人「これは人種差別じゃないか」
私の友人は怒りがこみ上げているようだった。
私「白人が人種差別について不満を言うとは」
私はからかうように言った。
友人「後で同宿生を連れてきてみよう」友人は狡猾な計画を立て始めた。
それからまもなく、新たに来た同宿生は我々に夕食を一緒にしようと要請してきた。
私「小白水食堂がおいしいと聞いたんですがそこに行ってみるのはどうでしょうか?」
同宿生「わかりました行ってみましょう」
我々3人が到着すると、先日と同じ店員が出てきた。彼女は我々2人の外国人を認識したら苦笑いをした。店員は何かを言おうとしたが、同宿生がそれを遮った。
同宿生「この2人は私と一緒に行きました。心配いりません」
彼は自信に満ち溢れた担保をした。
店員は若干躊躇した後に我々3人を焼肉用コンロが設置されている丸い食卓に案内してくれた。金髪の友人は「今回は人種差別をしてくれなくてありがたい」と言った。
店員が顔を赤らめ「人種差別ではなかったんですよ」と小さな声で答えた。
ただ、我々はうれしかった。実際我々は平壌の数多くのレストランを巡礼していたのだが(滞在中、訪れたレストランは150箇所を超えた)、このレストランをすっかり気に入ったのだ。
現地人で賑わい、メニューには比較的安い値段の朝鮮ウォンが表記され、平壌の外れに位置し、目立つ看板はなく、ほかの外国人には知られていない、そんなレストランであった。
その上、そこは2階にあったのだが、窓から黎明通りの中心部や国で最も高い建築である70階建てアパートを見下ろせた。
我々はサムギョプサルを何キロか注文し白菜キムチも頼んだ(北朝鮮にキムチやおかずの付け合わせがない)。
若干甘い北朝鮮式キムチもやはり美味しかったが、同宿生が焼肉コンロで焼き始めたサムギョプサルの香りは魅惑的で唾が溢れた。
同宿生はしばし考え、口を開いた。
同宿生「人種主義だと言わないでください、君。社会主義朝鮮では人種主義がありません。皆が平等に扱われます」
だが青い目の友人は同意しなかった。
友人「私の風貌では、平壌のレストランでよく入店を断られます。それは人種分離をしたアメリカの南部とまったく同じです。黒人が白人のレストランで食事ができなくしたようにです。私の場合はもちろん、アメリカ黒人への悪徳な扱いほど酷くはないし微妙なものではありますが、それが人種差別でないならば何だというのですか?」
彼は論争を大変好んだ。
同宿生「微妙な人種主義は人種主義ではありません」
金日成総合大学はその程度の批判的思考を教えるのだ、と私は思った。