映画『グレース・オブ・ゴッド』は対岸の火事ではない。性虐待は日本の仏教者や占い師にも

僧侶イメージ

※写真は本文と関係ありません
阿野陽 / PIXTA(ピクスタ)

映画が描いたカトリックの宗教的性犯罪

 カトリック教会での児童への性虐待事件をモデルにした映画『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』が公開された。カトリックに行ける性虐待事件は世界の複数の国で問題視されており、日本も例外ではない。またアメリカでは2015年にもカトリック教会での性虐待事件に基づいた映画『スポットライト 世紀のスクープ』が公開されている。  『グレース・オブ・ゴッド』の映画自体については、すでに本サイトでヒナタカ氏が詳しいレビューを書いているので、作品の詳しい説明はそちらに譲る。  『グレース・オブ・ゴッド』『スポットライト』で描かれた事件の性格は、以下のようなものだ。 (1) 被害者は教会の信者たち (2) 教会組織が問題を認識しながら隠蔽した (3) 被害を知る信者たちにも教会を守る宗教的理由等から口をつぐむ者たちがいた  加害と隠蔽に宗教組織や宗教的文脈が関わっている「宗教的性犯罪」である。  そこで、宗教者による性犯罪が日本ではどのような状況にあるのか、過去の新聞報道から調べてみた。宗教者が容疑者となった性犯罪事件は、1991年から2020年の間にちょうど100件(うち10件は不起訴あるいは無罪)。90年代の記事は5件のみで、95件は2000年以降のものだ。21世紀に入ってから年間4~5件は、宗教者が性犯罪の容疑で逮捕あるいは送検されている計算になる。  文化庁の『宗教年鑑』(令和元年版)によると日本のカトリック信者数は約44万人。それ以外の非宗教法人も含めたキリスト教全体では約190万人。これに対して神道系は約8700万人、仏教系は約8400万人だ。  今回は信徒ではなく聖職者など指導的な立場にある人々による犯罪について調べるので、信者数ではなく「教師数」を見る。『宗教年鑑』(令和元年版)に掲載されている「教師数」(宗教法人以外の宗教団体も含む)は、以下の通りだ。 仏教系:約35万人 神道系:約7万人 キリスト教系:約3万人 諸教:約20万人  信者数では神道が僅差で仏教系を上回るが、教師数で見ると仏教系がダントツの最大多数派だ。神道系は2位ではあるがキリスト教系の2倍強しかいない。  日本のこうした宗教人口の構成を踏まえた上で、宗教者による性犯罪について考えていきたい。

性犯罪が最も多いのは仏教者

 今回の統計に使うデータは、@niftyの「新聞・雑誌横断検索」サービスを使って、通信社と一般紙(全国紙・地方紙)の記事。「僧侶」「住職」「牧師」「神父」「宮司」「神主」「占い」「祈祷」「宗教法人」「宗教団体」などのワードそれぞれを、「逮捕」「わいせつ」「買春」「下着」「盗撮」といったワードと組み合わせて検索したものだ。記事の内容をもとに容疑の内容や宗教の種類などを分類しカウントした。不起訴や無罪判決の続報があった事件もカウントしている。刑事事件のみで、刑事事件化しなかったトラブルや民事裁判は含めていない。  新聞記事データベースでは、実名報道された容疑者からのクレームによるものかメディア側の自主規制によるものかは不明だが、古い性犯罪記事がいくつか削除されている(何件かは筆者が過去に検索した際に保存しておいたデータで補足した)。そのため実際に報道された件数と検索でヒットする件数との間に多少の差がある可能性がある。  1991年から2020年までの29年間で、宗教別の内訳は以下の通り。 仏教:55件 神道:9件 キリスト教:7件 祈祷・占い:24件 その他・不明:5件 計:100件  仏教者が容疑者になった事件が圧倒的に多く、全事件数の半数以上を占める。前述の通り「教師」の数では仏教系が最大多数派なので、当然だろう。  上の統計では、祈祷や除霊を口実とした性犯罪でも容疑者が「僧侶」を自称したり新聞側が「僧侶」として報じている事件7件は「仏教」に分類している。  しかし、たとえば仏教の寺で僧籍を取得した人が「僧侶」を名乗り事実上は個人経営の祈祷業である、というケースもしばしばある。寺で僧侶たちが不特定多数の「水子」などを集団で供養する儀式を行うケースもある一方で、個別の信者の求めに応じて個別面談での除霊儀式を行うケースもある。後者は実質的に「祈祷師」に近い。  そこで、僧侶を自称したり僧侶として扱われている宗教者でも、個人面談の祈祷等での性犯罪については「実質祈祷師」として扱い、「仏教」から「祈祷・占い」に分類し直した。すると、宗教別の内訳は若干変わる。以降は、この統計に基づいて話を進めよう。 仏教:48件 神道:9件 キリスト教:7件 祈祷・占い:31件 その他・不明:5件 計:100件
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信仰活動外での性犯罪が多かった仏教系
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