元上司の楠氏(中央)を直撃する赤木雅子さんと私(写真提供:文藝春秋)
では、当時の責任者たちはどうなったか? 財務省理財局長として改ざんを指示したとされる佐川宣寿氏は後に国税庁長官に昇進(改ざん露見後に辞任)。「佐川氏の指示を現場に押しつけた」と赤木俊夫さんの手記で名指しされた中村稔・財務省理財局総務課長はロンドン公使に栄転。
「全責任を負う」と発言して改ざんを最終決定したと書かれた近畿財務局長の美並義人氏は東京国税局長に栄転。みんな偉くなっている。
それだけではない。近畿財務局で赤木俊夫さんの上司だった人たちが「赤木さんを食い物にした」「全員、異例の出世」と告発する文書が、妻の赤木雅子さんのもとに届いた。調べたところ、そこに書かれた異動はすべて事実だった。
俊夫さんの直属の上司、池田さんのさらに上司にあたる楠(くす)敏志管財部長(当時)に至っては、処分直後に近畿財務局ナンバー2の総務部長になり、その後神戸信用金庫に天下っている。赤木雅子さんが訪ねると「過去のこと」「何も話さない」と逃げ回った。
こうしてみるとよくわかる。偉い奴からまず逃げる。責任から逃げる。そして出世する。現場でまじめに頑張っている人が割を食う。満州でも、コロナでも、森友改ざんでも。この国は同じことを繰り返していないか? これでは卑怯者と嘘つきの天下ではないか。私は日本を愛する。だからこの国が正義漢と正直者の世の中であってほしい。
甥っ子とゲームで真剣勝負中の赤木俊夫さん
赤木雅子さんは今、国と佐川氏を相手に裁判を起こしている。この裁判で佐川氏をはじめ改ざんや国有地取り引きに関わった人たちに証言を求めたいと考えている。さらに第三者による公正な再調査を行ってほしいと国に求め、賛同の署名は35万を超えた。
7月24日、故郷・岡山にある俊夫さんの墓所を訪れた雅子さんからLINEが届いた。
「今日お墓参り行って思い出しました。昔から『僕はまあちん(雅子さん)より1日でもいいから先に死にたい』と言ってました。ひとりになるのは耐えられなかったんだろうと思います。私はもう2年もひとりで生きてるから強いみたいです」
「夫が亡くなった後、岡山の実家で私が泣き叫んでいたことを義姉から今日聞かされ、覚えていなかったのでびっくりしました。忘れてること、たくさんあります。池田さんたち、忘れる前に早く話してほしい」
池田さんとは、俊夫さんの上司だった池田靖氏。国有地値引きと改ざんの両方に関わり、真相を知る立場だ。時がたてばいろんなことを忘れてしまう。早く話をしてほしい。すべては
赤木雅子さんと私の共著の題の通り、「私は真実が知りたい」のだ。それが実現する時、この国は真に、正義漢と正直者の世の中に立ち戻れるはずだ。
<文・写真/相澤冬樹>