よく親は子どもに対して「怪しい人についていかないように」と伝え、子どもに警戒を促す。小児性愛者の見た目は、「いかにも怪しい」のだろうか。
小児性愛者の容貌について斉藤氏は「いまクリニックに通院している小児性愛障害者のほとんどは、見た目はごくごく平凡です。あやしくは見えません」としたうえで、
「いってしまえば、どこにでもいそうな人。強いていうなら、年のわりにやや童顔で線が細く、柔和なイメージの者が多く、子どもの目にはやさしそうなお兄さん、おじさんに見えます。彼らの多くは子どもの警戒を解きながら近づき、仲よくなり、一定の関係性を築いたうえで問題行動に及ぶのですから、子どもが怖がるような風貌ではないのです」
と特徴を綴っている。
犯罪白書には被害者と加害者の関係性が示されている。小児わいせつ型の犯罪では、「1割強が親族であり、3割強が親族以外の面識のある者」と書かれている。加害者の約4割が身近な人物や面識のある人物であるというデータは衝撃的だ。犯人になりそうな人を見た目だけで判断できない。それどこから、感じがよく優しそうなお兄さん、おじさんが加害者になりえるのだから恐ろしい。
ではどのようにして子どもを性犯罪から守ればよいのか。被害に遭わないことが一番だが、仮に性暴力の被害に遭ってしまった場合、できるだけ早期の発見が極めて重要になる。
小児性愛者の多くは「子どもと大人」や「先生と生徒」といった権力を振りかざし、子どもに口止めを要求する。被害者は、本当は嫌で、周りに助けを求めたいのに加害者のさらなる性暴力を恐れて誰にも打ち明けられない。小児性愛者はその状況をいいことに、犯行をエスカレートさせていくのだ。
斉藤氏は親ができることとして、次のように述べている。
「保護者と子どものあいだ、そして学校教育のなかで、具体的に身体のどの部分を触られたら性暴力なのかを伝えること、そのときにどのように助けを求めるのかも日ごろから確認しあうことです。そのためにも、『誰かから不快なこと、痛いこと、辛いこと、ちょっとでも”おかしい”と感じることをされたと思ったら話してほしい。絶対に怒らない。あなたは悪くないんだから』と、子どもにくり返し伝えましょう」
日頃から親子間で話しやすい環境を作るほか、どの部分を触られたら「おかしいことなのか」を伝える。こうした性教育をすることが大切だと斉藤氏は述べる。
性犯罪には高い依存性があるため、一度でもうまくいって快感を味わってしまうと繰り返してしまう。小児性愛者に犯行の成功体験を与えてはいけない。
とはいえ個人ができることには限度があるため、法律を含め社会全体で性犯罪を防ぐ対策が求められる。
たとえば教員が強制わいせつで懲戒処分を受けた場合、どうなるのだろうか。教員免許は失効するが、永久に失効するわけではない。3年経つと再び免許を得られる可能性がある。つまり、性犯罪を犯しても一定期間を経れば教員免許を取得し、どこかで性犯罪を繰り返すリスクがある。一度でも性犯罪を犯せば、二度と教員免許が取れないような制度作りは必要だ。
性犯罪を犯すリスクがある人間を教育や保育現場に入れない水際対策も有効な一手になる。イギリスでは子どもと関わる仕事に就く場合、性犯罪を初めとした犯罪歴がないことを示す証明書を職場に提出することが義務づけられている。キッズラインに登録の男性シッターが強制わいせつ容疑で逮捕された事件を受け、ベビーシッターに同様の証明書提出を義務化すべきとの声が日本でも挙がっている。
ただ子どもに性加害をした者の中には働く中で自分の性的嗜好に気が付き、犯行に及ぶケースもある。既に教育や保育など子どもに関わる仕事に従事する人に対して自分の性的嗜好の変化に気が付いてもらったり、犯罪リスクの高い場合は犯行に及ぶ前に適切な治療を受けてもらったりするといった仕組み作りも求められる。
<文/薗部雄一>