いま観光業に必要なのは「安全・安心」なのに、GoTo事業をゴリ押しする不可解な安倍政権

再び豪雨が日本を襲っているにもかかわらず……

 さらに、7月初めには今年も100年に一度あるかないかの豪雨災害で多数の人が死亡・行方不明となった。財産も奪われた。そんな自然災害が今年もやってきた。もはや線状降水帯は誰もが知る言葉になりつつある。こうした災害はもう100年に一度ではない。毎年のことだ。  いま国民の生命と財産にとっての喫緊の脅威は、北朝鮮のミサイルよりも、台風や豪雨、地震などの自然災害のはずだ。しかし、国防予算には毎年5兆円を計上しても、安倍政権では自然災害に対するものは約0・75兆円に過ぎない。おかしいと思うのが当たり前だ。  もちろん、国防予算であっても災害時に身体を張って救援活動をしてくれる自衛隊員らの給与や装備品に使われるのなら何も言うつもりはない。私が言いたいのは、このタイミングで不要不急の戦闘機をアメリカから100機も購入すると発表したり、軟弱地盤でいつ完成するか分からない辺野古の米軍の基地建設のために大切な予算が使われることが理解できないのだ。見直すべきものは、トランプ大統領に言われて二つ返事で購入を決めたものの、日本の本土防衛には役立たないイージスショアだけではないのだ。  こんなおかしい政治を質す役割は野党にある。かつての中選挙区制時代なら自民党内でも活発な議論があった。派閥間での切磋琢磨があった。けれども、中央執行部に権限が集中してしまった現在はほとんど反対の声が聞こえてこない。それでも政権に少しでも反抗するような態度を示すと、参議院広島選挙区の自民党溝手元議員がされたように、多額の金を投入して刺客を送られる。それが今の安倍政権だ。やはり野党に期待するしかない。  では、今の野党に弱点はないのだろうか?

反緊縮財政論者の論拠「MMT」に抱いた違和感

 私が心配するのは、いま巷で言われる緊縮財政派と反緊縮財政派の論争の中にある。  断っておくが、私は今の国難と言える経済不況の時に困っている国民や企業に必要な支援を行うための財政出動に反対しているのではない。積極的に賛成する。しかし、今の反緊縮論者の中にその主張の根拠をMMT(現代貨幣理論)においている人がいることを危惧しているのだ。  MMTの本を読み、その主張を辿っている時に、私が思い出したのは、25年以上前から世の中に顔を晒すようになってから、時おり居酒屋などで知らない酔人にこんな風に絡まれたことだ。 「ねえ、佐藤さん。こんだけ皆んなが困ってるんだから、政府は輪転機を回せって思うんですけれどダメなんですかね?1万円札を大量に印刷して必要なところに配ればみんな助かると思うんですけどね」 「いや、そんなことをすると、インフレになりますから」 「インフレって、テレビではデフレ、デフレって言ってますよ。インフレの心配があるんですか?」  そんなことを思い出した。  MMT「現代貨幣理論(Modern Money Theory)」とは、一言に要約すると、不景気などで積極的な経済政策、つまり多額の財政支出を伴う時にこれまで常に問題視された財政赤字や国債の発行とその残高の問題。そういうことを原則として心配しなくて良いということだ。もっと分かりやすく俗流解釈に沿って言うと、国の借金などを心配せずに、国はどんどんカネを使っていいというものだ。なぜなら、国債の元本も利子も、貨幣(お札)を刷ることによって、いくらでも、確実に返済できるからだという。このためMMT論によると、財政赤字は大きな問題にしないのである。もちろん、そこにはちょっとした条件はつく。それは、政府が自国通貨建てで支出している限りは政府支出を制約する必要がないということ、インフレ率が一定のレベルになるまでは、という条件だ。インフレ率が一定になった時に初めて財政支出の抑制を考えれば良いとしている。酔人のアイデアとどこか似ていると思う人も多いだろう。そして、大学などで経済学を学んだ人はこうも思うだろう。  この考え方は、金融政策で確立された古典的な手法にどことなく似ている。景気が過熱しインフレ率が高くなった時は、金融政策を引き締める。景気が低迷しインフレ率が低い時には金融緩和する。20世紀の各国政府と中央銀行が行ってきた王道の手法にどこか似ているのだ。その手法を金融から財政に拡張した様に思えるのがMMTなのだ。インフレが過熱したら財政を抑え、今のようにデフレ状態に近い時には積極的に財政支出をすればいい。増税、減税のタイミングもこれと歩調を合わせることになる。そういえば、昨年秋に消費税の増税を決めた時にも反対者の多くはこう言った。今のような経済の下で増税するとますます景気が悪くなる。そして、景気が悪くなることによって税収も減ってしまうのではないかという主張だ。ということで、MMTによると、今の日本のようにデフレ気味で長期低迷経済の下では、今までの財政の均衡の呪縛にとらわれることなく、もっと支出を増やすことができることになる。ここに反緊縮派やリベラル派の一部が飛びついた。いまは公共投資だけでなく、社会保障や格差や貧困問題、教育費まで思うような支出はできない。むしろ切り詰める傾向にある。  野党やリベラル派の人道的な主張も常に財政難を理由に拒否されてしまう。できるものならやりたいけれど、財源はどうするんですか?と反論されると答えに窮してしまう。財源は?と問われ、この問いに真面目に答えようとすると必ず敵を作ってしまうからだ。教育に地方に社会保障に予算を回せ、弱者をもっと救済せよ、そのために無駄な公共投資をやめよ、防衛費を削減せよ、もっと大企業や富裕層に課税しろ。環境税を新設しろ。そういう答えを出すしかなかった。リベラル派の政策を実現するための財源を確保するためには既得権益に手を突っ込む必要があるから、必ず猛烈な抵抗にあう。しかし、MMTが正しいのであれば、インフレ率が低い限り、どこかの支出を削減したり、増税したりする必要はなくなる。いくらでも生み出せる自国通貨を剃ればいいだけだ。それなら、誰にでもいい顔をしつつ新たな政策を推進できるのだ。
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MMTはすべてを解決する打ち出の小槌なのか
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