職場の発達障害者と接するにおいて、信頼関係を築くよう心掛けることはとても大切だ。
まず発達障害をカミングアウトされたとき、最初にどう反応すればよいのか? 私個人としては、
「カミングアウトしてくれて、ありがとう」と感謝の言葉を伝えるのがよいと思う。想像してみてほしい。いまだに多くの人々が発達障害に対して偏見を抱いている。事件の容疑者がたまたま発達障害だったというだけで、発達障害がクローズアップされるようなこともある。そんななかで、あなたというひとりの人間を信じてカミングアウトしているのだ。まずはその
信頼を裏切らず、しっかりと受け止めてほしい。
だからといって、あなたにカウンセラーのようになれと言うつもりはない。むしろ、特に職場では余程親しくない限り、
過度な深入りは禁物だ。医学的知識や相手に対する理解もなく、闇雲に深入りされてしまうと、本人も相手も疲れ切ってしまうことだろう。
やはりお勧めなのは、問題となっている
特性にフォーカスを当てて接することだ。けっして、「やる気がない」「人として駄目」などと言ったように本人の人間性にフォーカスを当ててはいけない。
次に、対話することを心掛けてほしい。ステップ1で述べたように一方的な決めつけをしないとなると、相手の話を聞くことがとても重要になってくるはずだ。一緒になって問題を解決していくためには、
多くの問いかけが必要だろう。繰り返しになるが、発達障害者の中にはコミュニケーションが不得意な人がとても多いため、丁寧に質問をして、答えを引き出すのが良いだろう。
その時、とりわけ気を付けてほしいのは、なるべく
「言語化」をすることだ。コミュニケーションが苦手な発達障害者の多くは、言語化されていない「空気」を読むことが不得意だ。「言わなくても、こんな前提はわかるだろう」というものが通じないことも多い。相手の様子を見ながら、もし必要があればうまく言葉を足しながら会話を進めていくのがよいだろう。
発達障害者の待遇においては、発達障害者本人を尊重すると同時に、営利企業としての会社の利益を求める両方の視点が必要だ。どのようにすれば、Win-winの解決策にたどり着くことができるだろうか?
方法は大きく分けてふたつある。まず
現状のポストで仕事の与え方を工夫することだ。それから、もうひとつは
配置転換を実施して、より本人の特性にマッチした仕事を与えることだ。まずは前者を試してみて、本人と話し合いながら後者を試すとよいだろう。
その時に大切なのは、発達障害というものがすぐに理解できたり、ましてやすぐに解決できたりする問題ではないと理解することだ。長い目で見て、じっくりとお互いにとってベストな選択肢を選んでいくのが良いだろう。
ここまで職場において発達障害者とどう接するべきかについて考えてきた。だが、そもそもなぜ職場で発達障害者とよりよく接する必要があるのだろうか?
理由はふたつある。まずひとつ目は発達障害者の「活用」を進めるためである。発達障害者自身も活躍の場を探しているし、企業も埋もれている人材を「活用」できることに利益があるはずだ。
しかし、より重要な理由は、そもそも
発達障害者があなたと同じ人間だということだ。たとえ発達障害という「違い」があったとしても、私たちはあなたと存在価値の劣ることのない尊い人間だ。あなたには私たちを人間として扱う道義的責任があるのだ。単なる「活用」の論理だけでなく、こういった「人権」の論理によって、発達障害を持つ人と関わり合ってほしい。
<文/川瀬みちる>