SNSでの認知のゆがみは、イベントや撮影会など、実際に対面することになった時、最も恐ろしい形で現れるという。
「売り出し中の新人ほど、最初は作品に出演するよりも、撮影会などの会えるリアルイベントの仕事を増やされます。撮影会の中には”個人撮影会”という、スタッフさんもいない密室で二人きりで撮影するようなものもあります。
中にはそこで、胸やお尻、陰部などを触ってこようとする人もいるし、風俗的な行為を頼んでくる人もいます。それを断ると、逆に自分のものを見せてこようとする人もいる。そういう人を出禁にすることもできるけれど、SNSでの距離感が近すぎて、友達のような距離感で逆恨みされることもあります。
会場から出る時にストーカーされるかもしれない。相手は私たちを”むしろヤラれたいと思っているビッチ”だと信じていることがある。怖すぎますよね」
AVによっては、痴漢モノやレイプモノなど、本来なら性犯罪に当たるものもある。痴漢モノに出演する女優とSNSで交流し、自分が痴漢してあげたら喜ぶかもしれないと勘違いしてしまう男性もいるということだ。
「事務所はプライベートまでは守ってくれません。でも、自分でいざ声をあげたら”印象が悪くなるよ”と苦笑いされる。ファンとメーカーの目を気にした”苦笑い”で黙認するのみで、積極的に対応して守ってくれるということはありません。そして、何か問題が起きるとしたら、前に出ている私たち演者が被害を受けることになるんです」
エロは好き。でも、性犯罪にははっきり「NO」と言いたい
認知のゆがみによるファンのセクハラDM。さらに、それをこじらせて撮影会やイベントなどの”会える”場所にまでその認知を引きずって持ってきてしまうファンもいる。そこまで来ると、性犯罪一歩手前だ。
「性欲をぶつけられるのがイヤなら、AV女優やめろと言ってくる人もいるけど、私の作品に性欲をぶつけてくれる分には全く違和感を感じません。私個人は元来、エロが好きであることには間違いないんです。ただ、エロが好きであっても、性犯罪にはNOと言いたいです。顔も分からない匿名の誰かの直接的な性的発言を真摯に受け止めることはできないし、性的合意が取れていない人とは性交渉もしません。
AV女優はエロい、それは間違いではないかもしれません。けれど、私たちはセックスを演じるのが仕事です。作品の中の役割でなく、女優個人の人間性を、業界もファンも、もっと認めてほしい」
撮影がない日でも、SNSでも発信を続ける。例えば人妻としてデビューしたら、SNSでも人妻として振る舞わなければいけないのだという。AV業界では、女優の個人アカウントまで含めてフィクションでコンテンツなのかもしれないが、中の人はリアルな人間だ。
日本はポルノ大国ではあるが、性教育については後進的だ。セックスリテラシーは高まりづらいのに、幼い頃からポルノに触れることができてしまう。
女優はフィクションでないと、AVが売れない。ただ、そのままにしておいたら、いつかこの認知のゆがみが原因で、性犯罪が起きかねない。そうなってからでは遅い。
業界の体質を変えたり、性教育やネットリテラシーで消費者を啓発したりする必要があるのではないだろうか。
<取材・文/ミクニシオリ>
1992年生まれ・フリーライター。ファッション誌編集に携ったのち、2017年からライター・編集として独立。週刊誌やWEBメディアに恋愛考察記事を寄稿しながら、一般人取材も多く行うノンフィクションライター。ナイトワークや貧困に関する取材も多く行っている。自身のSNSでは恋愛・性愛に関するカウンセリングも行う。