トランスジェンダーの人々を「精神疾患」と見なす医療規範。当事者がより良い医療を受けるためには?

「現場」との対抗戦略と視座

 こう考えてみると、私が入院の際に医師から直截に「発達障害」と指摘されたことは理由のないことではない。言葉や活動の上でトランスジェンダー当事者への「脱病理化」が進んでいるとしても、トランスジェンダーの人々が「医療」というさまざまな問題、規範を繁殖させたまな板のうえから取り除かれたわけではない。  それゆえ、トランスジェンダーの人々と医療との緊張関係を考えた時、言論、概念上の医療改革だけではなく、医療「現場」で私も直面した医療規範への対抗戦略が必要になる 。同時に、医療現場への「視座」も必要だ。そもそも退院をし、このような記述を可能にさせてくれたのは、現場の看護師やスタッフの方々の細かな配慮によるものだった。新型コロナウィルスも理由であったが、ミサンドリーの強い私に特別に個室生活を与えてくれ、閉鎖病棟内を歩く際には異性装やメークも認めてくれた。入院中、私の性的マイノリティとしての人権、尊厳はある程度保たれて生きることができた。  特例法に顕著なように、文字はそれ単体としては生きた心、「性」を失っている。しかし、その文字に参与しているすべての人々がその意味での「性」を忘れず、対抗し、実践に移していくならば、トランスジェンダー医療の状況は改善してゆく余地を残していると感じられる。私がこうして生きて文字を紡げていることがその査証である。 <文/古怒田望人>
古怒田望人(こぬたあさひ) 大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程所属。専門は、トランスジェンダー・スタディーズ、クィア理論、哲学、現象学、フランス現代思想。院生として研究をする傍ら、当事者、非当事者の垣根を越えて集うことのできるサロンやカフェを運営、またライター活動を行う。自身のジェンダーは広くトランスジェンダーであるが「男女どちらの性に対しても『あたりまえnormal』という規範normを姿かたちから切り崩せる」ようなスタイルを模索している。その一環としてフリーモデルも行う。
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