では、前代未聞の現職議員夫婦の逮捕は今後、政権にどんな影響をもたらすのか? 政治ジャーナリストの藤本順一氏は「岸田禅譲の目はほぼ潰えた」と分析する。
「案里氏が、安倍首相に批判的な岸田派の重鎮・溝手元国家公安委員長を追い落とすべく、昨年の参院選で広島選挙区に送り込まれたのは周知の事実。ウグイス嬢への倍額支給問題で元秘書が一審で懲役1年6月執行猶予5年の有罪判決を受けており、自身の裁判を待たずに連座制の適用を受けて当選無効が言い渡される可能性が濃厚ですが、岸田文雄政調会長からするバツが悪すぎる。自分の派閥の重鎮を追い落とした首相にすり寄って禅譲を画策してきたからです。検察庁法改正案などで支持率が急落している安倍首相に、もはや自身の主張を押し通す力はない。二階幹事長が反安倍の石破茂氏と接近しているように、岸田氏に代わるポスト安倍レースが本格化している状況です」
さらに、今回の事件を受けて解散時期が前倒しになる可能性も。ジャーナリストの鈴木哲夫氏が話す。
「年をまたぐと公明党は夏の都議選に向けて動きだすため、今年の秋口ないし12月の解散が濃厚と言われてきましたが、9~10月解散が現実味を帯びてきた。一つには10月中にIOC(国際オリンピック委員会)が東京五輪開催の可否を決定することが挙げられます。仮に開催中止となれば失望感が広がる。また、11月には米大統領選があり、トランプ氏が敗北すれば蜜月関係を築いてきた安倍首相の外交手腕が問われかねない。実は、同時期に、河井夫妻の一審判決が出る可能性があるのです。起訴する時期にもよりますが、百日裁判となれば、早ければ10月末頃の判決。裁判の過程では1億5000万円問題がクローズアップされるのは必至ですから、その前に解散を打ってしまおうという見立てです」
コロナ禍の最中、延長国会を拒否した安倍政権は一足早く選挙モードへ? 秋口の動向を注視したい。
従来の公職選挙法違反(買収)は、選挙期間中や直近の現金供与などに適用されていた。これが選挙とは離れた時期にも適用されたことで、「今後はあらゆる政治資金の使途を透明化する流れが加速せざるをえなくなった」(郷原氏)という。少なくとも、1億5000万円もの大金が選挙前に党本部から支部に流れるようなことはなくなりそうだ。
<取材・文/週刊SPA!編集部 写真/時事通信社 産経新聞社>