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通常国会が閉会した翌日の6月18日、ついに河井克行前法相と妻の案里参院議員が揃って東京地検特捜部に逮捕された。容疑は公職選挙法違反の「買収罪」。昨年7月の参院選前に集票を依頼する目的で広島の県議ら94人に計2500万円以上をバラ撒いた、という疑いだ。
この問題に火をつけたのは『週刊文春』だった。案里陣営がウグイス嬢に対して、公職選挙法で定められた日当上限の倍額を支給していたことを昨年10月にスクープ。広島地検が公職選挙法違反の疑いで河井夫妻の事務所などを家宅捜索した今年1月には、またも文春砲がさく裂した。克行氏と案里氏がそれぞれ支部長を務める政党支部に、計1億5000万円もの資金が党本部から参院選前に振り込まれていたことを報じたのだ。同じく、参院選広島選挙区で自民党公認候補として出馬して落選した溝手顕正氏に振り込まれた資金は1500万円。その10倍もの資金は何に費やされたのか? 捜査の過程で浮かび上がったのが、地元広島県議らに対する買収工作疑惑だった。だが、現職議員が選挙時の買収で立件されるのは異例だ。元特捜検事の郷原信郎弁護士が解説する。
「従来の公選法違反による買収罪の適用は、選挙期間中やその直近に選挙協力の対価などとして金銭などを供与する行為が中心でした。しかし、今回の事件では、参院選の3か月前の現金供与に対して適用している。河井夫妻は陣中見舞いや昨年4月の広島県議・市議選の当選祝いという名目なら言い逃れできると考えているのでしょうが、その主張を覆せるだけの材料が揃って逮捕に至ったのは間違いありません。なぜなら、公選法では、受け取る側に『特定候補を当選させる目的のお金だった』という認識があり、かつ使途の定めのない『自由に使えるお金だった』という2点だけで買収罪が成立する。金銭を供与された県議らの証言だけでも有罪に持ち込める可能性が高い」
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すでに有罪判決は濃厚というのが郷原氏の見立てだが、事件はさらに広がりを見せる可能性がある。
「公選法には『交付罪』が規定されています。これは、選挙協力を目的とした買収資金に充てられることを認識したうえで、その原資を提供していた場合に適用されるもの。つまり、自民党本部から振り込まれた1億5000万円が買収工作の原資となり、かつ本部がその使途を認識していた場合には、交付罪が成立する。過去に政権与党の本部が交付罪で立件された例はありませんが、今後の捜査で1億5000万円の流れが解明されると、本部への家宅捜索が実施される可能性は十分にあります」
安倍政権はこのお金の流れを追及されることに危機感を表していた節がある。全国紙政治部記者が話す。
「年明けすぐの段階で、自民党幹部は『桜問題よりも、河井夫妻の公選法違反のほうが深刻』と話していた。その直後に、広島地検が河井夫妻の事務所などを家宅捜索して1億5000万円もの資金が党本部から流れていたことが発覚。それで2月7日に政府が黒川弘務東京高検検事長(当時)の定年延長を閣議決定すると、『検察に対するプレッシャーだな』と、その幹部は漏らしたのです。つまり、異例の人事権を振りかざすことで捜査を抑え込もうとしたのでは?と。1億5000万円ともなれば、二階俊博幹事長一人で決裁できるはずがない。今回の問題が直接、安倍政権を脅かす可能性があることを、その幹部は認識していたのです」