1970年代ニューヨークのハーレムにて、身に覚えのない暴行殺人事件で逮捕された婚約者の無実を晴らすため、妊娠中の黒人女性が奔走する姿を追う。普通のカップルの幸せな生活が引き裂されてしまうまでの過程には、大小さまざまな差別意識が積み重なっており、やるせない気分にさせてくれるだろう。
監督は、『ムーンライト』(2017)でアカデミー作品賞を受賞したバリー・ジェンキンス。その美しい撮影と音楽、幸せな過去と厳しい現在の2つの時間軸を交互に見せる作劇には、この理不尽で悲劇的な物語を包み込むような優しさも感じられた。白人の中には優しい人間もいれば、身内の黒人の中にも強い偏見を持つ者はいる。閉塞的な状況の中、怒りや悲しみの感情を背負いつつも、絶望を乗り越えた先にあるラストシーンには、例えようもない感動があった。
幼なじみが無抵抗のまま白人警官に射殺されたにも関わらず、その警官が正当に裁かれないままでいるという状況に、女子高生が立ち向かっていく物語だ。事件の一部始終を目撃したからこその悲しみや怒り、はたまた世間の反応に対して「どう思えばよいのかもわからない」という動揺など、ティーンエイジャーの等身大の心理と成長が丹念に描かれていた。
オープニングで告げられる、「9歳の時のパパとの約束」はかなり強烈だ。黒人であるがゆえに、外に出かけるときは白人から不当な扱いを受ける“覚悟”をしなければいけない、子どもの頃からその生き方を享受しなければならないというのは、恐怖でしかない。黒人に理解を示す人がいたとしても、簡単には解決できない矛盾や悪しき体制が社会に根付いている。そこからでも、「できることはある」と希望を示す様に、勇気付けられる人は多いだろう。
あと3日で自由の身となる保護観察期間中の青年が、とある殺人事件を目撃したことから始まる物語だ。タイトルの「ブラインドスポッティング」とは、「2通りの見方ができるが、それを同時に見ることができないという状況」を指している。それを持って、人種にまつわる諸問題が、まさに「見る人によって異なる」ことが示されているのだ。
劇中の主人公の2人は幼なじみ同士。肌の色は違えど、育った環境も同じで、ずっと仲の良い親友でいられると思っていたのだが、実は見ていた景色も、その価値観も大きく異なっていたという事実が浮き彫りになっていく。しかし、新しい視点が生まれることで、多層的な世界の姿を知ることで、より良い方向に進むことはできる。そんな普遍的な、問題解決へのヒントも与えくれる内容であった。
確たる証拠がないのにも関わらず、殺人事件の犯人に仕立て上げられた死刑囚を救うために新人弁護士が奔走する、実話をベースとした物語だ。当たり前のように捏造が行われ、弱い立場の人を追い詰める理不尽さには、誰もが憤りを隠せないだろう。主人公コンビ以外の死刑囚のエピソードも、とても示唆に富むものになっている。
仕組まれた証言や直接的な嫌がらせにもめげることなく、“正義”を信じて立ち向かっていく人々の姿は、エンターテインメントとして抜群に面白い。そして、このような冤罪のために死刑執行される黒人が彼の他にもいて、それが人種差別に基づくものであり、今もなお現実で続いているという問題を、重く受け止めることができるだろう。