
金日成総合大学の敷地(筆者撮影)
 ほとんどの同宿生(大学の寄宿舎で留学生とともに暮らす、現地人学生を指す言葉)は我々を若干遠ざける傾向を見せ、よそよそしく扱った。特に男子留学生の前では大部分の女性同宿生らは消極的だった。しかし、ただ一人いた「カッコいい女子」は私の記憶に深く残っている。ジョンアというじゃじゃ馬だった。
 ジョンアはもともと清津の生まれだが中学校に上がるため首都に上がってきた。彼女は咸鏡北道の人であるためか、周囲の平壌の人とは性質が少し違っていた。北朝鮮の20歳の女性が持つ可愛らしさと柔らかさを備えながら、その年にしては珍しく人生に対する勇気と自信を持ち合わせていた。
 彼女は知性的な人で、正直、勉強をそこまでしない周辺の同宿生と比べると頭が良く、学業も優れているようだった。英語を専攻する同宿生はジョンアだけではなかったが、彼女だけが我々に英語の文法と語彙に関してしばしば質問をし、積極的に英語で対話した。
 我々が教えた新たな単語や慣用句を彼女は残らず記憶し、後に我々との対話でそれを使おうとした。
 ジョンアもセンスのある女性だった。彼女は冗談を言ってよく我々を笑わせた。
 留学生はみな彼女に好感を持ち、かっこいい人であると思っていた。北朝鮮のように伝統的で家父長的な社会では酒を飲む女性は珍しいが、ジョンアが留学生寮でのパーティで、女子同宿生で唯一、大同江ビールを飲んだことも記憶に残っている。
 だがもちろん、北朝鮮である。そのため我々は交際する機会は別途なかった。
 彼女は一度、我々の部屋でラーメンと弁当を一緒に食べたが、その後部屋の前でたむろしている男子の同宿生から小言を言われていた。
 私が思うに、北朝鮮ではない普通の国であったなら、彼女とは良い友人になれていた。これは我々が長期間、寄宿舎で過ごす中で起きた現象から推論し導いた法則であるが、留学生と仲良くする同宿生ほど、寄宿舎にいる期間が短い。ジョンアも例外ではなかった。
 ジョンアが留学生寮を去る時、私は彼女に言った。
 「未来がよくなることを願う。君はしっかりしているし、色々と魅力のある女性だから、人生が上手くいくと信じている」
 私は彼女が未来に成功する姿を見られないのがあまりにも惜しい。