ある日、新たな男子同宿生が寮に入ってきた。この同宿生はすらりとした10代後半で、性格が優しく、つねに若干純粋で素朴な表情をしていた。
私は彼からは良い印象を受けた。そして午後5時に「閑談」をしに私の部屋のドアをノックする彼を、私は歓迎した。
「どうぞ入って。緑茶でも飲むかい?」
「いえ、結構です」
彼はドアの前でずっと立っていた。
「アレック先生と雑談をしたかったんです」
その頃、同宿生たちと話す機会がなかった私だったが、現地人の友人を一人つくるつもりで彼に笑いかけた。
「良い1日を過ごしましたか?」
「うん、勉強もたくさんしたし、昼には焼肉混ぜご飯を食べたよ」
「ああ……そして、ほかには何をしましたか?」
「街の商店で生活必需品を買いに行って……」
「ああ、わかりました。すみませんが少し用事があってもう行かなければなりません」
「いやあ、部屋で緑茶でも飲みながら少し話して行かないか?」
「すみません、アレック先生……」
「わかったよ。それじゃあな」
私は彼が体を翻し横の部屋のドアを叩くのを注視した。私はその時、彼が私と友人になるために来たのではないと認識した。
彼はしばらくの間、毎日きっかり5時に私の部屋のドアを叩いた。私がいかに部屋の中に招こうともいつも同じ言い訳をした。
「行かねばならない」、「用事がある」、「忙しい」。そして「閑談」は私はその日に何をしたのかを話すだけで早くも終わってしまった。
監視であることを隠し切れておらず、隠す気もなさそうだった彼
我々留学生は彼について「任務」を最も隠せていない人物として見るようになった。我々は彼の任務に対するひたむきさと「いい加減な態度」をむしろカッコよく思ったし、ほかの狡猾な同宿生よりも彼をはるかに尊敬した。
彼は仕事だけを片付けてしまいたかったようで、不必要なゲームなどには関心がないようだった。その姿は笑えるし、可愛らしくもあった。
しかし彼もまたなぜか、他の同宿生よりも早く去って行った。彼が去った後、明らかに他の同宿生が交代で日毎やってきては質問をしてくるようになった。
新たな同宿生は彼よりもはるかにねちっこく、我々は彼をさらに懐かしんだ。後に聞くと彼は留学生を監視することをあまりに退屈で意味のないことのように感じ、いっそのこと田植えをしたがっていたという。
またその頃、同宿生たちの本質があらわになった。
ある日、中国人実習生が私の友人に質問したのだ。
「『同宿生』を英語でなんと呼ぶんだろう?」
「うーん(しばし考えて)……『スパイ』じゃない?」
我々はみな笑った。
<文・写真/アレック・シグリー>