コロナ禍の中で進む中露のネット世論操作。その時、ヨーロッパは!?

中露によってネット世論操作のターゲットになったイタリア

 中国政府はコロナを抑え込んだ後、積極的にコロナで苦しむ国に対して援助の手を差し伸べ始めた。その中でも目立っていたのはイタリアの支援だ。もともとイタリアはこの30年間、政情不安定が続いていた。パンデミックによる混乱は国内外の勢力にとって格好のつけいるすきとなり、さまざまな情報が流布、錯綜する事態となった。Digital Forensic Research Labは、パンデミックと並行してインフォデミックが発生したとそのレポート『Russia exploits Italian coronavirus outbreak to expand its influence』(2020年3月30日、Digital Forensic Research Lab)で指摘している。  まず、中国に先んじてロシアが動いた。ロシアは大量の医療物資をイタリアに提供したが、その際、ポーランドが人道支援(ここを強調)のためのロシアの航空機が領空を通過するのを許可しなかったため、大幅に迂回せざるを得なかったと非難した。ポーランドはすぐに反論したが、ロシアのツイートは急速に拡散し、300万インプレッションとなった。同日、ロシアのプロパガンダ媒体であるスプートニクのイタリア版で批判を行い、3日で10万以上のエンゲージメントを得た。その他、YouTubeなどでも同様にポーランドやEUを批判する投稿が行われた。 同時にロシアを褒め称え、感謝を表すSNS投稿を拡散し、元イタリア首相がEUに見捨てられた後にロシアに助けられたとツイートし、3日で100万インプレッションに達した。  世論操作は対象はプーチン個人にも向けられ、「ありがとう、プーチン」という言葉がSNSに溢れることとなった。  中国はロシアに似たアプローチを取った。イタリアの政党五つ星運動を利用して、イタリア政府へのロビイスト活動を行った。コロナの感染拡大に際して、中国はロシアと同じく価値ある仲間であり友人というスタンスを取っていた。中国からのイタリアへの医療支援は巧妙に計画されたプロパガンダの一環だった。3月11日、ローマの中国大使館イタリアへの支援についてハッシュタグ「#ForzaCinaeItalia(中国はイタリアとともに)」をつけてツイートした。そのハッシュタグは6千万インプレッションを獲得した。イタリアのマーケティング会社によると、拡散したアカウントの46.3%はボットだったという。そのうち37.1%には「#GrazieCina(ありがとう中国)」のハッシュタグもついていた。  「#GrazieCina」のハッシュタグは反EUのコンテンツによく使われており、一環して中国はEUやアメリカよりもイタリアのよき友人であると主張していた。中には、ロシアやキューバ、アルバニアと並んで中国を礼賛している投稿もあった。 「#GrazieCina」というフェイスブックページも作られ、反EUと親中国のコンテンツを拡散した。  その他に「Learn Chinese」という中国語学習のフェイスブックページもある。このページは「Chinese Radio International」が運営しており、フェイスブックページから「Chinese Radio International」の英語サイトに飛ぶようになっている。300万のフォロワーがおり、中国語の学習の傍らでイタリアを助けてくれた中国への感謝の意を表して中国国家を演奏している動画を拡散するなどしている。

ヨーロッパは中国に屈したのか?

 EUは今年に入ってから中国を「systemic rival」と呼び、警戒を強めているが、遅きに失した感は否めない。すでに一帯一路の展開でギリシャは最大の港であるピレウス港への中国の関与を許している。イタリアも一帯一路に参加している。  こうした動きの中で衝撃的な事件が起きた。  2020年4月24日、ニューヨークタイムズはEEAS(欧州対外活動庁)が中国のネット世論操作活動についてレポートの中での表現を控えたことを暴露した。具体的には、中国が世界的にネット世論操作活動(global disinformation campaign)を展開して国際的なイメージを改善しようとしていた、という指摘から「世界的にネット世論操作活動」の部分を削除したという。  続いて27カ国のEU大使が中国の英字新聞チャイナデイリーに寄稿した記事の中でコロナが中国で発生したという記述を中国からの要請で削除した。EUの外交安全保障上級代表のジョセップ・ボレルはこの判断が中国からの要請で行われたことを知ったうえでEU大使の判断を支持した。 これらからEUは経済便益を重要視し、対中国姿勢を軟化させているのではないという非難が広がった。  その後、2020年6月9日に、ジョセップ・ボレルは中国外相との会談について報告を行っている。中国との間の課題について明言は避けつつ、中国とよい関係を模索し構築しようとしているが、それでも各種人権問題についてはEUの立場を主張したと語っている。続く質疑応答では、中国とEUの今後の関係を暗示するような表現が見られた。たとえば、「中国は世界で重要な役割を果たそうしているが、軍事的な野望はない」あるいは「我々は我々の価値観と便益を守るためにも中国と現実的な関係を築くべきだ」といった言葉があった。 「They committed once and again to the fact that they want to be present in the world and play a global role, but they do not have military ambitions and they do not want to use force and participate in military conflicts.」 「I think that we have to build a realistic relationship with China in order to defend our values and interests.」  その後、EUは中国を狙った新しい関税賦課を発表した。  現在、中国の最大の貿易相手はEUである。経済を考えると中国との関係はきわめて重要であり、バランスを取りながらつきあってゆくしかない。
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