MCバトルシーンの黒幕からブラック企業まで RAWAXXXが感じる憤り<ダメリーマン成り上がり道 #33>

 MCバトルやヒップホップがお茶の間にまで浸透した現在。世は空前のフリースタイルブームとなっているが、長年シーンで活躍してきたRAWAXXXは何を思うのか? オーガナイザーとしてシーンを支えてきたMC正社員が本音に迫る。

才能がないMCに優しいシーン

RAWAXXX(左)とMC正社員(右)<撮影/荒熊流星>

RAWAXXX(左)とMC正社員(右)<撮影/荒熊流星>

MC正社員(以下、正社員):「今のフリースタイルブームはどう思ってんの?」 RAWAXXX(以下、RAW):「やってる人たちが媚び売りすぎてよくないと思うすね(笑)。単純に。なんでお金の稼ぎ方をキッチリしないのかな。名前も顔もわかんない、誰だこいつって奴がレーベルとか大会をやって。違うシーンになってもいいけど、そうなってくとバランスを取らないと、もうヒップホップじゃないし、MCバトルでもなくなってくんで」 正社員:戦極caicaでCDを出すぐらいからずっと言ってたよね。MCバトルは変わったって、俺は『そんなことないよ』って話してたけど、ここ1~2年は別の流れになってきたよなって思うようになった」 RAW:「『フリースタイルダンジョン』の始まる1〜2年ぐらい前から、危なかったね。何年もやってる人(ラッパー)たちが報われるのはいいけど、才能ない奴が報われるシーンは本当にシビアじゃない。お金も、人生の時間も絡んでくるんだから、才能ない奴はダメなんですよ。才能ないんだから。それをあるようにしちゃった。優しくしちゃったんですよね。誰とは言わないですけど。まあまあ、酷いラップを何年もやってるんで見てられないですね」 正社員:「ただ、『(シーンの現状が)おかしいですよ』って言ってるときのほうがRAWAXXXは負けてるイメージがある」 RAW:「負けてる」 正社員:「でも、ここ最近はRAWAXXX が『違う』って言ってるのに、優勝してるところを見てる気がする。だから、これはなんなんだろうっていう」 RAW:(呂布)カルマくんもそうじゃん。(過去の大会でも)ガッツリ勝ってたし、絶対。でも、負けてたんですよ」 正社員:「確かに呂布さんもここ10年くらいまったくスタイル変わってないけど、お客さんの反応は全然違うRAW:「でも、そこから報われてきたというか」 正社員:呂布さんの番になってきたね」

作られたヒーローが増えている

——今になって評価が追いついてきたのには、どんな理由があるんでしょう? RAW:シーンを劇場型にしてるんで。誰がしたって言わないですけど、そうやって作られたシーンになってきてる感情とか同情、情がいっぱい入ってるんですよ、バトルって。でも、それはアーティストには関係ないんですよね。ラップの音源を出して、それに情が入るかっていうとそうじゃないんですよ。誰とは言わないけど某チャンピオンとかは地元のシーンに歓迎されなかったですけど、それは地の力がなかったから。かわいそうだなって思っちゃうんですよ」 正社員:この話はやめよう、俺はそう思ってないからね(笑)」 RAW:「そういうのをちゃんと言わないとわかんないんだよ、マジで。“やらされちゃったな”とか、“ヒーロー感出されてキラキラしちゃったんだな”とか。出す歌とかもスゴいエモいしさ。ドラマじゃないんだから、人生を歌うのに同情してもらってどうするのお前っていう。それってネガティブじゃないですか。みんな言ってることがネガティブなんですよ」 正社員:「本当この人怖いな……」 RAW:「ヤクザに詰められたわけでもない。親が死んで孤児になったわけでもない。『俺は中学んとき超馬鹿にされてきたから』みたいな。『高校で見返してやろうと思って鍛えたんだよね』とかなら、『アツい!』ってなるじゃないですか? でも、グチグチ言って、最終的にそれに賛同する奴らが童貞みたいな奴らばっかりで」 ——厳しいですね……。 RAW:「経験もしてないのに、『快楽ってなんだよ! SEXってなんだよ! 俺らは童貞だけどさあ』みたいな。いやいや、童貞じゃ話になんないから。SEXっていうのを知って、快楽を知らないと。ナンパもできずに10年間童貞になりましたとか、そういうのをカッコいいって文化にしちゃった奴らがいるんですよ」 正社員:「人それぞれのヒップホップ感があると思うので。俺は童貞側なんで。そう思ってないですからね(笑)」
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