このような現状を変えるために、超党派の国会議員で組織された「政治分野における女性の参画と活躍を推進する議員連盟」によって議論が行われ、2018年5月16日に「政治分野における男女共同参画推進法(通称:日本版パリテ法)」成立した。この法律では各政党に対し、衆議院、参議院及び地方議会の選挙において、男女の候補者数をできる限り均等にするよう努力義務を課している。
この法律が施行されて初の国政選挙となった2019年7月の参議院選挙では、社民党が女性候補者比率71.4%で最も高く、日本共産党が55%、立憲民主党が45.2%とほぼ男女が均等だった。一方で与党の自由民主党は14.6%、公明党は8.3%と均等には程遠い数字だった。政治分野における男女共同参画推進法は各政党へ努力義務を課しているのみなので、自由民主党や公明党へ対し罰則などは存在しない。しかし政治家たち自身が立法した法律を、自らが守らないという現状には疑問を抱かざるを得ない。
女性議員の少なさについて、「立候補しない女性に問題がある」と原因を女性側に押し付ける人もいるが、現状はそこまで単純ではない。内閣府男女共同参画局が2018年3月に発表した調査では、全国の女性地方議員約4000人に「女性地方議員が少ない原因として考えられる理由」を質問した。すると、「議員活動と家庭生活(子育てや介護等)との両立が難しい」と答えた人が最も多く78.6%、「家族や周囲の理解を得づらい」73.4%、「政治は男性が行うものという固定的な考え方が強い」59.1%と続いた。
同アンケート調査で、「所属議会における託児所と授乳室の設置状況」について質問したところ、託児所については97%が、授乳室については95%が「設置されていない」と答えたように、議員活動と子育ての両立がそもそも想定されていない。
また、本人の出産を欠席事由に認めていない市区町村議会の数が、未だに51議会も存在しており女性の被選挙行使を躊躇させる障壁が存在している。議員本人の出産だけでなく、配偶者の出産や育児、家族の介護についても欠席事由として認めていない自治体が数多くあり、男女問わず生活を犠牲にしなければ議員活動を行えないという状況がある。
「家族や周囲の理解を得づらい」いわゆる家族ブロックに関しても、「義父母から家の名を汚すと猛反対され、旧姓での立候補を強いられた」と語る女性候補者や、夫から家事・育児への支障がでない範囲内での活動という条件を課され立候補した女性候補者は、「男性候補者の多くは妻のバックアップのもと活動しており、メディアもその状況を内助の功と美談として報じる。一方で女性候補者は、家事や育児の家庭内での仕事をこなしながら日々の活動を行わなければならず、どうしても男性候補者に比べ活動時間が限られてしまう」と筆者に語ってくれた。
本記事で検証してきたように、日本社会では各ステージごとに『防弾ガラスの天井』が行く手を阻み、女性総理大臣が誕生しない現状がある。その一方で日本では、「日本社会におけるジェンダーギャップの有無について」という本来必要のない議論が行われている。そのような不毛な議論へ終止符を打ち、ジェンダーギャップを是正するための議論や施策を考え社会を前進させるべきだ。
<文/日下部智海>