そもそも「消毒薬」として販売されていない市中の次亜塩素酸類
次に
有効性、効能の表示です。これは広告などから読み取れますし、製品にも簡単に記載してあります。
まず、
有効性に付いての表示です。実は、現在市中で販売されている次亜塩素酸製品(主成分を次亜塩素酸とするもの)は、基本として
雑貨であって、
消毒薬として販売されていません。これは厚労省において薬機法の審査、承認を受けているものがないからです。従って
消毒薬としての効能を記載すると薬機法などの法令違反になる可能性があります*。
〈*関連する法令は下記となる
食品衛生法(昭和 22 年 12 月 24 日法律第 233 号)
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和 35 年法律第 145 号)
不正競争防止法(平成 5 年 5 月 19 日法律第 47 号)
不当景品類及び不当表示防止法(昭和 37 年法律第 134 号)(景品表示法)
消費者安全法第5条〉
従って、あくまで
読み物(物語)として読むことになります。
一部の製品では、独自の試験を行い、その結果をホームページなどに掲載しています。それ自体は、筆者にとってはとても興味深く、楽しいものですが、あくまで
Take note(書きとどめておく)程度の意味合いしかありません。理由は、あくまで私的なものであって、
公的に承認されたものでなく、そういった試験結果をいくら積み重ねても消毒薬としての効能や安全性は認められていないからです。その上で雑貨として考えてもその試験方法が消毒薬の公的な検査規格に沿ったものであるかの判断ができません。極端なことを言えば、検査規格を無視すれば「お醤油」にもその塩分によって消毒の効能をつけることは可能です*。
〈*昭和中期頃までは、傷口にお醤油を塗って消毒する手法があったらしく、筆者が小中学生の頃まで、傷口や火傷にお醤油をかけるなと言う記述が保険教材などにみられた〉
なお、業者によってはたくさんの検査証書をホームページに提示しているものの
低解像度の為に記載事項が全く判読できない事例があります。こういったことは直ちに改めねばなりません。
安全性や効能については、まず科学的、医学的合意が形成されねば
●●大学で検査した、✕✕試験センターで試験したと言ってもそれは根拠(エビデンス)にならないのです。安全性や効能については、まず科学的、医学的合意が形成され、その上で担当省庁による承認を得て初めて製品として成り立ちます。残念ながら筆者が探した限り、あくまで私的試みの読み物であっても
有効性について根拠となり得るものはありませんでした。
次に
安全性についての表記ですが、これは
お話になりません。「弱酸性」であるから安全と謳う製品がたいへんに多いのですが、
弱酸性であることは安全性の根拠になりません。
次亜塩素酸ナトリウム(ハイター)で手荒れする原因の多くは、その
強アルカリ性に由来します。確かに、「
次亜塩素酸水」は
弱酸性なので
手荒れしにくいと言う事実はあります。しかし、例えば有効塩素濃度1ppmでpH6(弱酸性)程度に調整されている遊泳用プール(溶存する有効塩素の殆どは次亜塩素酸分子)であっても皮膚や目、粘膜に異常を来す人は現れます。また、筆者の身の回りにもその場で電気分解により製造した次亜塩素酸水の愛用者はいますが、
軽度であっても皮膚に異常を発生する事例はあります。
また次亜塩素酸水が
食品添加物として認められていることを安全性の根拠にしている表記が多く見られますが、食品添加物としての次亜塩素酸水は、
製品出荷時点で除去されていることが義務となっています。食品の消毒という用途で次亜塩素酸ナトリウムや「次亜塩素酸水」は食品添加物として認められていますが、それらは
食品としての最終製品の出荷段階で除去されていることが必須であって、消費者に接触することは認められていません。従って
消費者が直接接触する消毒薬(または相当品)としての安全性の根拠には全くなりません。
化学薬品の人体への安全性は、その検証のハードルが高く、たいへんに高いコストと時間を要します。一方で安全性の実証のない化学薬品を人体や生き物に直接使うことはたいへんに危険です。これが製品化のための最大の関門と言えますが、この関門を通過した次亜塩素酸製品を筆者は見たことがありません。
これらについてもNITEの見解は、筆者のそれとほぼ同じとなります。
NITE資料の模擬事例にみる次亜塩素酸製品のラベルの酷さ
ここでNITE発表のファクトシートに記載されている次亜塩素酸製品のラベルの、模擬事例を一つ引用して検討します。この模擬事例一つとっても酷いものですが、実際にはもっと酷いものが幾らでもあります。
まず筆者の知る限り全ての消費者向け次亜塩素酸製品の全てが
遮光性のない瓶に詰められて販売されています。中には
透明瓶もあります。これはもう
全く駄目で、
製造出荷後、光化学反応によって分解が進んでいることを示します。キッチンハイターなど次亜塩素酸ナトリウム製品は、
遮光瓶に入っており、液面は外から見えません。
成分表示も全く駄目で、辛うじて次亜塩素酸が入っていることが分かればマシという程度で、中には
成分表示だけでは中の液体の正体が分からないいものも多数あります。
液性については未表記、または弱酸性という表示がありますが、
正確な水素イオン指数(pH)が表示されている製品はを筆者は見つけられませんでした。これは安全性と効果を判断する重要な情報であるのにです。
製品の使い方もなかなか凄く、空間除菌や、人体への使用、ペットへの使用まで書かれている製品があります。これらは
薬機法違反が疑われる他、根本的に問題があります。ペットや人体への直接利用を謳うのであるならば、マウスや豚を用いた
動物実験による安全性の証明を経ている必要があります。
使い道については、器具の消毒については、次亜塩素酸ナトリウムや次亜塩素酸水であるならば認められていますが、それらが生体や人体への利用が認められた事例を筆者は知りません。そして器具であっても例えばマスクの場合は、消毒が十分にできるほどに塗布すれば、不織布マスクは
液浸によって濾過性能を失いウイルス素通しの「殺人マスク」となりかねません。布マスクの場合は、内部の消毒が十分にできていない雑菌繁殖マスク=「病気になるマスク」になる可能性があります。
禁忌事項の説明がある製品を殆ど見かけません。塩素酸類は強酸(塩酸やクエン酸など、体内では胃液)や過酸化水素と混ぜると猛毒の塩素ガスを発生します。「次亜塩素酸水」の場合は、有効塩素濃度が「10〜80ppm」と低いので強酸と混合しても致命的なほどには塩素が発生しないという考え方があるようですが、
どんなに微量であっても塩素は発生します。現在流通している次亜塩素酸製品の多くは有効塩素濃度が100ppm以上ですので、キッチンハイターの希釈液(通常200ppm程度)と同程度の有効塩素濃度を持ちます。
次亜塩素酸製品である以上、この表記は必須です。
「
混ぜるな危険」
筆者は、消費者が想定外の行動をとることから、次の表記を強く推奨します。これはキッチンハイターなどの既存の次亜塩素酸ナトリウム製品も対象とします。
「
飲むな、食べるな、混ぜるな死ぬぞ」
最後に空間除菌について言及します。次亜塩素酸には、たいへんに強力な殺菌力があり、弱酸性であるために次亜塩素酸ナトリウムほどに金属などを強く侵さないことから、次亜塩素酸ミスト(霧)を噴霧することによる空間除菌や人体の除菌を主張する製品があります。
このような薬剤の噴霧による空間や人体の除菌は、200年足らずの近代的消毒法の歴史では数多く試みられ、実用化もなされてきましたが、すべて淘汰されて消え失せています。そもそも現実の使用環境で
空間除菌に効果は認められておらず、薬剤の人体、生体への害、耐性菌の発生などで空間除菌は「やってはいけないこと」とするのが医学的、科学的合意です。
無論、やってみたいという動機は理解できますので、とくに実地での安全性を中心に効果、耐性菌の発生可能性などについて全て実証できれば消毒の歴史に燦然と輝く実績を残すことができます。その研究は、たいへんに大規模な国家事業となるでしょう。
なお、国の
事故情報データーベースには最近の
次亜塩素酸噴霧による事故報告が登録されています。安全性の実証は、こういった事故情報をしらみつぶしに精査することを必須とします。現在はインシデントで済んでいますが、無視していればとんでもない人身事故になりかねません。
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職場ではコロナ関連で、次亜塩素酸を噴霧している。目が痛く、腫れてきたのに、商品には健康被害の注意書きがない。2020/03/16事故情報データバンクシステム
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コロナウイルス対策で加湿器に別売りで作成した次亜塩素酸水を使用し噴霧したことにより呼吸困難になりそうになった。2020/03/25事故情報データバンクシステム
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スーパーでコロナ対策のためにレジ付近に次亜塩素酸の噴霧器を使用していたため喘息発作が起きた。対応に問題あるのではないか。2020/05/12事故情報データバンクシステム
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父が友人から次亜塩素酸水を買い加湿器に入れたところ、目が痛くなり眼科にかかった。販売してよいのか。説明義務はないのか2020/05/18事故情報データバンクシステム
この次亜塩素酸ミスト噴霧装置の氾濫にはNITEも相当な危機感を持っているようで、「次亜塩素酸水」等の販売実態について(ファクトシート)で大きく取りあげています。