スムース / PIXTA(ピクスタ)
企業倫理、工業倫理上の問題が表面化している次亜塩素酸業界
前回、6月初めになって市中に急速に広がりだした
次亜塩素酸製品について、それらが広がる背景と実態について概要をご紹介しました。その中で、次亜塩素酸製品が販売、設置されている実態が、個人と集団にとって危険な状態であることを指摘し、それは基礎的な企業倫理と工業倫理に反するものではないかという指摘を行いました。
本邦ニセ科学批判者によってニセ科学問題として定番の話題として取りあげられる次亜塩素酸製品ですが、アブないChemist(化学者)としての視点では「優れた化学物質がもったいないな」という思いでした。
しかし、実際に店頭に大々的に並び、郵便局などで顧客用に設置されている実態をみると、一目で「
これは遠からず大きな事故を起こすし、インシデントは既に激発しているのではないか。」という危機意識を持つには十分な「酷い実態」が眼前に広がります。このままでは次亜塩素酸の製品としての命脈が永遠に絶たれることにもなりかねませんので、とくに事業者の方は塩素酸愛好家のChemistの目に業界が行っていることがどう映っているかを自覚していただけると幸いです。
今回は、
経済産業省に委託を受けた
独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の公表した「
『次亜塩素酸水』等の販売実態について(ファクトシート)」を使いながら筆者が身の回りで見た実態とあわせて企業倫理、工業倫理上の問題事例としてご紹介します。本来は、店頭の商品を買い取って写真入りでご紹介することも考えたのですが、製造原価の詳細を知るものとして、あまりの値段の高さに目玉が飛び出し、肝が潰れて救急搬送されかねませんのでそれは断念しました。
商品には、製品の表示というものがあります。この表示は、消費者への公式な情報開示であり、履歴書のようなものです。消費者はこの表示を読むことでその製品の購買可能性を判断しますので、商品にとって最も重要なものと言えます。それらの実態をみて行きましょう。
(1)製法、成分などの表示
製法、成分などの表示は、最も重要なもので簡潔であっても正確に全ての情報が得られねばなりません。次亜塩素酸の製法については、電気分解によるものと次亜塩素酸ナトリウムなどを酸で中和したものの二つに大きく分かれます。僅かに他の製法もありますがここでは取りあげません。
「
次亜塩素酸水」と名乗れるものは厚労省の告示に則れば
塩水を電気分解したものに限られますが、驚いたことに筆者の身の回りで販売、使用されている「次亜塩素酸」「次亜塩素酸水」を名乗る製品でこの
製法表記のある製品は殆ど存在しませんでした。
成分表示も悲惨で、
「HClO」だけの表示、
「次亜塩素酸」、
「安定化次亜塩素酸 安定剤」、
「安定型複合塩素」など、
正確に全成分を記載したラベルは全くありませんでした。驚いたことに
濃度表示のない製品も多く、辛うじて100ppmとだけ表記した製品がみられました。Chemistならば、有効塩素濃度が100ppmですので、この製品は次亜塩素酸ナトリウムを酸で中和したものだと分かりますが、普通は好事家をのぞき無理でしょう。
「
安定化次亜塩素酸」と書かれても
意味が分かりませんが、Chemistならば次亜塩素酸ナトリウムのことかと考えます*。要は
ハイターの希釈液でお肌にとても悪いアルカリ性と解釈されてしまいますが、真相は分かりません。
〈*完全に電離してイオンとして存在する次亜塩素酸イオンの方が安定性が高い〉
「
安定型複合塩素」では、一体何が入っているのか全く分かりません。これは
論外です。
液性についての
正確な表記は皆無で、
水素イオン濃度(pH)がどうであるか分かる製品はありませんでした。これでは
皮膚に安全か否かが分かりません。基本的にアルカリ性のものは皮膚に付けてはいけません。石鹸のように弱アルカリ性であっても皮膚に付着した場合は、すぐに水で洗い流すべきです。とくに目や粘膜に付着した場合は、緊急に水で洗い流さねばなりません。そういった
安全上極めて重要なことが分からないのです。
次亜塩素酸は、
不安定なために製造後時間がたつと分解してしまいます。従って製造年月日が分からなければいつまで使えるかが分かりません。ところが
製造年月日を明記した商品は見当たりませんでした。
使用期限表記は当然殆どの製品に無く、あってもいつからいつまでかが分かりません。まさに
「お話にならない」そのものです。
NITEの発表したファクトシートにも筆者と全く同じことが報告されています。