AI担当者:「悲しみと購買行動が関係するんですね。不思議です」
私:「いえいえ、これは表情分析AIの分類制度が甘いからだと考えられます。この動きは悲しみ以外の意味も持っており、この場面では熟考と解釈するのが妥当です」
表情筋の動きは、複合的な意味を持つものもあり、現時点での表情分析AIに感情解釈を全て任せてしまうのは、ときに危険だと感じた出来事でした。
また、この動きはアメリカ人が「わからない」「確かではない」ということを表現するときに、ジェスチャーとして行われます。英語から日本語に翻訳されたある文章を読んでいると、日本人にもこのジェスチャーが当てはまるかのような誤読を導く書き方がときになされていますが、これは間違いです。日本人がこのジェスチャーをするという事実は確認されていません。
それでは、レベル2です。トライしてみて下さい。レベル1より難易度を上げて、似て非なる動きシリーズです。
それでは解説です。
①は幸福です。左右対称に口角が引き上げられるのがポイントです。
②は熟考あるいは感情抑制です。エクボが作られ、①の幸福に比べ、口角の端が細くなっているのがポイントです。会話のアプローチは、レベル1の③と同じ、会話のストップです。この動きは幸福を演技するときにも見られます。真の幸福感情の現れではないことに注意しましょう。
③は恐怖です。「い~」と強く発話してみて下さい。はい、その動きです。もう一つトライしましょう。寒いところに薄着でいるところを想像して下さい。はい、その表情の口元がこの画像の動きです。口角が水平に引かれると首周りに力が入ります。口角が上に向く方もいれば、下に向かう方もいます。幸福と間違えないようにしましょう。
④は感情のブレです。動画でないとわかりづらいのですが、下唇を噛んでいます。感情が不安定のとき、私たちはその感情の乱高下をなだめるために、手をすり合わせたり、顔をさわったり、膝をさすったりします。同様の動作を顔の動きでも行います。唇や頬を噛んだり、唇をすり合わせたりする動きです。どんな感情が心を乱しているのかは、他の表情の動きや文脈がないとわかりません。
最後に嫌悪について紹介します。嫌悪はよく目にする表情ですが、幸福表情とともに現れることがあり、嫌悪の存在を見過ごしやすいと言えます。本当に楽しんでいるのか、笑顔の中に嫌悪が隠されているのか、相手を大切に思うほど、この区別は重要になるでしょう。
①は典型的な嫌悪です。上唇が引き上げられ、上の歯茎が露出しているのがわかります。口の形が四角になるのがポイントです。
②は典型的な幸福です。③は嫌悪+幸福です。上唇が上に向かう動きと口角が引き上げられる動きが同時に起き、③のような表情になります。嫌悪は「フタをする」あるいは「排出する」機能を持ちます。不快なモノが体内に入ってこないように目・鼻・口にフタをしようとする、あるいは体内に入った不快なモノを排出しようとするのです。
③は、鼻にフタをし、口から排出しようとしつつも笑顔になっている状態です。嫌悪と幸福が同時に生じているのか、嫌悪を笑顔で隠そうとしているのかは文脈判断になります。接待やデートで、目の前の相手がオススメ料理を口にし、感想をいうとき、相手の表情に嫌悪+幸福が現れたら、その料理をそっと脇に寄せ、違う料理をすすめてみましょう。
いかがでしょうか。口周辺の表情からも多彩な感情を推測することが出来るのですね。ぜひ実践してみて下さい。
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<文・写真/清水建二>
参考文献
M.Yuki, W.W.Maddux, and T.Masuda, “Are the Windows to the Soul the Same in the East and West? Cultural Differences in Using the Eyes and Mouth as Cues to Recognize Emotions in Japan and the United States,” Journal of Experimental Social Psychology 43(2006): 303-11)