毎年0.4%の炭素を耕作地の土壌に加えることが、地球温暖化の解決につながる!?

家庭のCO2排出量をゼロにしても温暖化は止められない

化石燃料イメージ 次なる難敵は「地球温暖化は私たちのライフスタイルのせいだ、だからライフスタイルを変更すれば解決する」という誤解だ。  これもまた簡単に見ていこう。じゃ、そのCO2を出しているのは誰だろうか。「直接に出しているのは発電所かも知れない、しかしその電気を使っているのは私たちだ」と、義務教育で押し付けられている人が多い。その「直接に出している」ものを直接排出と言い、「その電気を使うことで出す」CO2を、間接排出という。ではそれぞれ数字で見てみよう。  全国地球温暖化防止活動推進センターのサイトにある「日本の部門別二酸化炭素排出量の割合(2018年度)」を見ると、直接排出は確かに「エネルギー転換部門(つまり発電所)」が40%を超えていて、圧倒的に多い。しかしそこで作られた電気のCO2排出量を、その責任に応じて消費した人にカウントする「間接排出量」ではどうなるだろうか。  それでも家庭の排出量は14.6%しか占めず、これをもしまったく出さないゼロの暮らしにしたとしても、地球温暖化は止められない。これを乗り超えるためには、どうしても産業部分の排出を減らせるか、全く別な方法を考えなければならない。  ここで一つ考えられる方法が、世界中から排出されているCO2の貯蔵化だ。ここでフランス政府の提案した4パーミルイニシアチブを利用してはどうだろうか。産業はカネのことばかり考えていて、人間の生存のための努力を考えてくれるとは思えないためだ。  88億トンという全世界での排出量は、炭素換算されたものだ。「二酸化炭素」を「炭素」に換算するには、二酸化炭素に 12/44をかける必要がある。逆に炭素換算の値に3.67を掛けるとCO2の量が得られる。ということは、「現在排出している89億トンの中の40億トン」を減らせばいい。この40億トンを地中に蓄積させればいいのだ。それを世界中の農地に蓄積させればいい。そんなに多くの量を蓄積させることが可能なのか。  フランス政府は世界中の耕作地に4パーミルで可能だと試算した。しかし土地の中に炭素を莫大に含ませることは可能なのか。ここでブラジルのアマゾンに隠されていたいくら連作しても障害を起こさない「黒い土(テラプレタ)」の秘密がある。なぜそのような土地があるのか謎だったが、それはインディオたちが人為的に作った土だった。有機物を不完全燃焼させて「炭」にし、それをアマゾンのやせ細った土である「ラテライト」と混ぜ合わせたものだった。

地域の仲間と、土地に炭素を入れていく活動を始めよう

農地イメージ3 今はそこからさらに調査が進化している。その結果、北アメリカは、ヨーロッパからの侵略者に植民地にされる前に、「テラプレタ」と同様の「モリ土壌」と呼ばれる豊かな土地に覆われていたことがわかった。  西欧からの侵略者たちはただ侵略し、伝染病を移して殺戮し、土地を使い捨てながらダメにしただけだったのだ。今やこうした人為的な「炭素作り」を、「バイオチャー(Biochar)」と呼んで進めている。これを日本の中でも進められないだろうか。土地の豊かさを示すのに、その土の中に住む微生物の種類と量で測る試みが進められている。それは耕地だけでなく、林地であっても同じだ。  それで見ると日本には豊かな土地を保持してきている土壌も多い。そのために「炭」を混ぜ込んだ「バイオチャー(Biochar)」が欠かせない。豊かにするだけでなく、それを土壌に混ぜ合わせるだけで、地球温暖化も防げるのだ。「テラプレタ」の場所によっては。黒い土の20%近くが「炭」だったりする。ほぼ無限に炭素を入れる必要のある土地はあるのだ。  化石燃料の利用を止めていくと同時に、地域の仲間たちと「バイオチャー(Biochar)」を作って土地に入れていく活動を始めないか。もしかしたら地球温暖化問題の解決までの期限に、間に合うかもしれない。  ぼくは10年前に『地球温暖化/人類滅亡のシナリオは回避できるか』(扶桑社新書)という本を書いている。その時に解決策を明瞭に打ち出せなかった恨みを、この原稿で取り返したいと思う。もしやる気があるなら、解決は可能なのだと。 【「第三の道」はあるか 第2回】 <文/田中優>
1957年東京都生まれ。地域での脱原発やリサイクルの運動を出発点に、環境、経済、平和などの、さまざまなNGO活動に関わる。現在「未来バンク事業組合」「天然住宅バンク」理事長、「日本国際ボランティアセンター」 「足温ネット」理事、「ap bank」監事、「一般社団 天然住宅」共同代表を務める。現在、立教大学大学院、和光大学大学院、横浜市立大学の 非常勤講師。 著書(共著含む)に『放射能下の日本で暮らすには? 食の安全対策から、がれき処理問題まで』(筑摩書房)『地宝論 地球を救う地域の知恵』(子どもの未来社)など多数
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