『ニキータ』から最新作『ANNA/アナ』へ。女殺し屋を描くリュック・ベッソン監督が仕掛けた「アップデート」とは?

©2020 SUMMIT ENTERTAINMENT,LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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 6月5日より映画『ANNA/アナ』が劇場公開されている。  本作はスピーディかつ特殊な作劇に翻弄されつつ、血みどろの壮絶アクションに驚き、そして現代的なフェミニズムのメッセージにも感動できる、アクションサスペンスの快作であった。作品の魅力やリュック・ベッソン監督のねらいなどを、以下に解説していこう。

1:ジェットコースター的に展開する、マトリョーシカのような物語

 あらすじを簡単に紹介しよう。モスクワの露天でアルバイトをしていた女子大生のアナは、パリのモデル事務所のスカウトマンに声をかけられ、瞬く間に売れっ子となる。その後に事務所の共同経営者と恋人関係になるが、2ヶ月が経ったある時、アナはその男を突如として撃ち殺してしまう。そして物語は3年前に戻るのだが……。  初めこそ「平凡な女子大生が売れっ子モデルになる」という過程が描かれていくのだが、いきなり彼女は“殺し屋”へと姿を変えるのである。その後は過去へ遡って彼女が殺し屋になった理由を解き明かし、並行して現在の足跡も追うことになる。時系列がシャッフルされ、その度に主人公の姿も変わっていくという、観客を良い意味で落ち着かせてくれない、ジェットコースターのように目まぐるしい展開となっているのだ。  こう書くと複雑で難解な内容と思われるかもしれないが、実際はそんなことはない。主要キャラクターは片手で数えられるほどの人数しかいないし、時系列のシャッフルもその都度テロップで「○年前」と表示されるため混乱はしにくい。何より、“同じ場面を違う視点から見る”ことによる「このシーンはこういう意味だったのか!」という驚きが、まるでミステリーを解き明かすかのような面白さにつながっているのだ。
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 その後、アナはCIAの罠にかかり、捜査官からこちら側に寝返ること、つまり二重スパイになることを命じられてしまう。そのCIAと、自身を殺し屋へと育てあげたソ連の諜報機関KGBの間で、板挟みになった彼女がどのような行動を取るのか……? その先は、ぜひ本編を観て確認してほしい。  また、劇中に登場する、有名なロシアの人形“マトリョーシカ”は、この特殊な作劇を暗喩している。人形の中に小さな人形が、その小さな人形の中にもっと小さな人形が入っているというマトリョーシカは、殺し屋や女子大生などのいくつもの“顔”を持つアナ、または違う視点が折り重なる“入れ子”の物語構造そのものとも捉えられるのだ。

2:スーパーモデルが繰り出す、血みどろの壮絶アクション

 主人公のアナを演じるのは、16歳でランウェイデビューを果たした、ロシア出身のスーパーモデルであるサッシャ・ルス。前述した特殊な作劇以上に、彼女が本作の面白さに大きく貢献しているのは間違いない。  白眉となるのが、中盤のレストランでの格闘シーン。何しろ、わずか5分の間に40人を相手にする、フォークや皿などの“その場の武器”も駆使した、壮絶アクションが繰り広げられるのだ。    1年をかけてマーシャルアーツを学んだサッシャ・ルスの素早い身のこなし、拳銃を遠距離攻撃だけでなく近接での攻防に活かす様は、『リベリオン』(2002)での二挺拳銃を用いる格闘術の“ガン=カタ”、『ジョン・ウィック』(2014)の銃とカンフーを融合させた“ガン・フー”も彷彿とさせる。美しい体術と血みどろのバイオレンスのギャップも含めて、アクション映画ファンにはこれだけで必見と言えるだろう。  また、アナは殺し屋、モデルにスカウトされる女子大生、はたまたドラッグ中毒の不良など、劇中で次々に姿を変えていく人物だ。彼女を演じるサッシャ・ルスがもともとスーパーモデルであり、様々な衣装に身を包んでいたこと、類まれな美貌も持ち合わせていたことも、この役にこれ以上のない説得力を持たせていた。  彼女の他にも、『クイーン』(2006)のヘレン・ミレン、『美女と野獣』(2017)のルーク・エヴァンス、『ダークナイト』(2008)のキリアン・マーフィと、人気と実力を兼ね備えた豪華出演者が勢ぞろいしている。女優としては新人ながら絶大な存在感を放つサッシャ・ルスと、これらベテランによる演技アンサンブルにも、ぜひ注目してほしい。
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明確なフェミニズムのメッセージも込められている
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